「5年後に東大合格者100人」。
経営破綻状態となった落ちこぼれ高校の経営再建のため、特別進学クラスを開設。受験指導の実績を持つ教師を集めて徹底的に受験に必要なテクニックを指導し、初の東大合格者を排出した。その舞台は龍山高校。率いたのは桜木建二。
漫画『ドラゴン桜』の話ですが、現実社会でも、それに負けず劣らずの個性的な校長が、デジタル化、グローバル化が進む21世紀の教育改革を先導しています。
開成中学・高校 〜校長は学術界のエキスパート〜
言わずと知れた私学の雄。開成中学・高校。東大合格は39年1位。
とはいえ、教師たちは、龍山高校のような受験テクニックを詰め込むのではなく、新渡戸稲造の『武士道』を読み込んだり、明治からの長い伝統を有するまさに「アカデミア」。校長は一流の学者です。
柳沢幸雄前校長
去年3月まで校長を務めた柳沢氏は開成OB。一度は中止になっていた、白ふんどしで千葉・館山の海を泳ぐ伝統の「水泳大会」を復活させるなど、「開成らしさ」を追求した一方、海外の有名大学を対象にした説明会を開催し、海外の大学への進学者を増やすなど、国際化への対応も推し進めました。
柳沢氏は、ハーバード大学でベストティーチャーにも選ばれた熱心な教育者で、東大でも教鞭をとった環境工学のエキスパート。
OBで国内外の学術の世界を極めた柳沢氏だからこその実績を残し、9年間の任務をつとめあげました。
野水勉現校長
現校長の野水氏も、開成OBで東大から研究者の道を歩み、ハーバード大学など海外経験も有するという点で、柳沢前校長と共通しています。
いわずと知れた進学校、開成の生徒たちは、将来、学術界のみならず、ビジネス界でも社会をリードしていくことになります。
受験に必要な能力は、多くの開成生が通う鉄緑会で身につけることができます。
しかし、世界を股にかけて活躍するプロがトップに立ち、賛同する教師たちと日々接することで身につく、「学術の本質」や「ノブレスオブリージュ」の気概こそが、私立に通う意味でもあります。
海城中学・高校 〜商社マンが学校を変える〜
一方、ビジネスマンがトップに立つと、新しい風を教育現場に吹き込み、変革をもたらします。
その典型が、高校からの生徒募集を停止し、6年間というゆとりのある学校生活で教育理念の実現を目指す進学校、海城中学・高校です。
柴田澄雄校長
2015年に校長に就任した柴田氏。出身は三菱商事。元商社マンという、多様な私学でも異色の経歴です。
秋田の国際教養大学の特任教授を経て、海城中学・高校の校長に招かれました。
その経歴に一貫するキーワードは「インターナショナル」。
三菱商事時代は、サウジアラビアや韓国などの海外経験を積み、国際教養大学で担当したのもグローバルビジネスです。学校が元商社マンを招致する狙いも見えてきますよね。
モンゴルの学校と提携したりと、一風変わった、しかし国際的な取り組みを進めつつ、重視するのは「実地」。
PA(プロジェクトアドベンチャー)といった米国ゆかりの体験学習プログラムを取り入れ、「脱ガリ勉」を図るなど、21世紀型の教育を推進しています。
「アカデミア」の開成と、トップの経歴こそ違えど、重視するのは世界に通用する人材の育成です。
広尾学園中学・高校 〜ドラゴン桜に負けじと〜
『ドラゴン桜』に負けじと、崖っぷちからの再起を図り、成功した学校の1つが広尾学園でしょう。
21世紀に入り、共学化と進学校化に舵を切り、ICT化で知名度を上げました。
南風原朝和校長
そんな広尾学園の校長に2019年に招かれたのが、南風原氏。
東京大学教育学部附属中等教育学校長、東大大学院教育学研究科長・教育学部長、東大理事・副学長という経歴を有した、教育界のエキスパートです。
医進・サイエンスコースは、サピックスの偏差値で60を超え、筑波大附属中学などと同程度のレベルまで上ってきた広尾学園を、どう進化させていくのか。
今後も目を離せない存在です。
慶應義塾 〜伝統の「一貫教育」〜
「私学の雄」とも呼ばれる慶應。その校長はどんな顔ぶれなのでしょうか?
中等部 井上逸兵部長
慶應中等部の「部長」は井上氏。社会言語学や英語を専門とする、慶應義塾大学文学部の教授です。
慶應の一貫教育校の長には大学教授が就くのが、これまでの通例です。
任期は3年で、特定の学部に限らず、慶應義塾の人事の一環として長が決まります。
あくまで教授との兼務ですので、常に学校に身をおいているわけではありません。
慶應の高校でも、大学教授が就くケースが多く、将来学部長や理事になるような有望な教授がマネジメントを学ぶ場ともなっています。
慶應の一貫教育校で、学校独自のの教育方針より、慶應義塾の学風が重んじられるゆえんでもありそうです。
普通部 荒川昭部長
一方、普通部の「部長」の荒川氏は、普通部教諭からの校長就任です。
中等部と異なり、普通部は、代々、プロパーの教諭が校長に就く傾向にあります。
とはいえ、荒川氏は慶應義塾大学・大学院の出身。慶應カラーを重視するのは、慶應らしいところです。
おわりに
ご覧のように、私立の校長は、公立の「校長”先生”」とはまったく違う立場。
「学校」という組織のトップの個性や経歴が非常に重視されます。
「和」が重んじられた時代から、日本も強いリーダーシップが求められる時代に変化してきました。校長の方針は、私学の将来性を大きく左右するものになっているのは、企業とまったく同じ。
学校選択においても、「学風」だけでなく、子供が通う「いま」の校長の教育方針にも注目してみる必要がありそうです。
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