中学入試と高校入試の私立の市場規模はまったく異なります。
それは、中学入試の受験戦略にも、初めての受験で挑む高校入試にどう臨むかにも、大きく影響してきます。
私立か、それとも公立か
高校入試の準備をするにあたってまず意識するのが、「私立か公立か」という点です。
都内では、都立日比谷高校などのトップ校と私立の開成高校の両方を受験する中学生も多くいます。
そして、「開成を蹴って日比谷に」という道も、いまや王道にもなってきました。
しかし、一般的に、公立高校を第1志望校に据え、公立に絞って受験勉強をするならともかく、難関私立高校を視野に入れるとなると、早い段階からその対策をするために塾に通うのが一般的です。
首都圏で難関校を受験しようと考えると、
あたりを筆頭に、塾選びをすることになると思います。
一方で公立高校を第1志望にと考えると、都内なら早稲田アカデミーも最有力の選択肢になりますが、神奈川ですと、湘南ゼミナールや臨海セミナーあたりに通おうという方も多くなるはずです。
公立トップ校が「思考力を問う独自問題」だからといって、ときに学習指導要領から逸脱する私立難関校とは「傾向と対策」的に異なる勉強法が必要になります。
(余談ですが、2020年末に「合格実績水増し問題」で話題になった臨海ゼミナールの、早慶付属高校の合格実績は、サピックスを遥かに上回ります)
コロナで差が拡大 公立・私立の入試問題
コロナ禍での対応は、私立と公立では千差万別です。
たとえば、コロナ禍での、入試対応について。
神奈川県の公立高校では、2021年の英語の入試問題では、英語は「中学校第3学年で新たに学習する英単語」が英単語(語句)を問う問題において、出題範囲から除かれました。
その語句、実に1,160語句。ざっと、中学3年間で学ぶ英単語の4分の1は、入試の対象から外れるという大サービスです。
あくまで、「英単語(語句)を問う問題において」ですので、英語の長文のなかに、これらの単語が含まれることはあるのですが、和訳や英訳において、airportもbabyも、beginも問われないので、受験対策のことだけを考えれば、極論覚えていなくても大丈夫なわけです。
また、東京都の除外対象は以下のとおり。
国語 | 中学3年生の教科書で学習する漢字 |
数学 | 中学3年生で学習する内容のうち、次に挙げる内容 ・ 三平方の定理 ・ 標本調査 |
英語 | 関係代名詞のうち、主格の that、which、who 及び目的格の that、which の制限的用法 ※ 同様の働きをもつ接触節も出題しません。 |
社会 | 公民的分野のうち、次に挙げる内容 ・ 『私たちと経済』の「国民の生活と政府の役割」 ・ 『私たちと国際社会の諸課題』 |
理科 | 各分野のうち、次に挙げる内容 【第1分野】 ・ 『運動とエネルギー』の「力学的エネルギー」 ・ 『科学技術と人間』 【第2分野】 ・ 『地球と宇宙』の「太陽系と恒星」 ・ 『自然と人間』 |
中学3年で学習する漢字や、数学で三平方の定理が除外されるという、これまた大きな決断です。
しかし、私立高校は、そのような「忖度」はしません。airportやbabyを知らなくてもいいなんて考えませんから、2021年の入試で問われることは十二分にある、むしろ、1・2年生で学ぶ単語より、中学3年生で学ぶ、より難易度の高い単語ほど、問われるのが、常識的な考えでしょう。
(公立高校に準じた対応をする私立高校もありますが、難関校については別です。)
ましてや早慶ですと、最近では減ってきましたが、英語では関係副詞や、高校レベルの英単語の知識が求められることだってあります。
偏差値表のうえで、公立より低い学校でも、それはあくまで相対的に、低い偏差値でも合格する確率が高いというだけであって、入試問題の難易度はまったく別問題ですので、現在のように、学校教育が混乱に陥っているなかこそ、雑念にとらわれず、淡々と受験対策をすることも、また必要だと思います。
中学受験と高校受験 市場規模が全く違う
当然高校受験者数は多いのだけど…
当然中学受験と比較して、高校受験そのものの市場は大きくなっています。
以下の表は、小学・中学・高校の各1 年生の生徒数です。
中学1年生より高校1年生のほうが私立に通う割合は高いです。しかし、難関校に限って言うと、事情は異なるのです。
少ない私立難関高校 〜高校受験でリベンジできる学校は少ない!〜
私立難関高校を目指す上で留意しなくてはいけないのが、私立中学の選択肢と私立高校の選択肢の違い、すなわち市場規模の違いです。
「私立」という、個性ある学風の学校に通いたい、もしくは大学付属高校に通いたいなど、動機や目的はそれぞれでしょうが、私立を目指すにあたってまず念頭に置かなくてはいけないのが、圧倒的に学校が少ないということです。
サピックス中学部のホームページに掲載されている偏差値表のうち、偏差値56以上の高校をまとめました。
56以上を掲載したのは、早慶の付属高校をすべて網羅できるのが56以上だからです。なお、帰国子女受験は、この表からは除外しました。
一方、サピックス小学部の偏差値表は、次のとおりです。
緑のマーカーを引いた学校が、高校からの募集もしている学校です。
赤は、早慶付属高校。こちらは偏差値56以上。これで、すべての早慶付属中学をカバーしています。
学校数の違いは一目瞭然ですね。
もちろん、受験者数が違いますから、学校が少ない=難易度が高いということではありません。むしろ、早慶を狙うなら、高校受験が1番難易度が低いです。
←難 →易
小学校 > 中学校 > 大学 > 高校
肌感覚として、サピックス小学部の偏差値50ちょっとあれば、高校受験では最難関高に合格します。αクラスが夢のまた夢でも、高校なら早慶や開成さえ受かるものです。あと上位に来るのが、中学受験未経験の帰国子女ですね。
— Motoサピックス講師 | 受験マーケター (@moto_sapi_t) January 17, 2021
その意味で中学受験の経験は重要ですし、未経験者はそれなりの覚悟は必要です。 https://t.co/inbltxyUT5
このツイートでも述べましたが、サピックスなどの進学塾に中学1年当初から通う生徒のうち、上位クラスの生徒は、中学受験組が多くいます。中学受験で失敗からのリベンジ、また学芸大附属の中学校に通いながらの高校の内部進学対策(学芸大附属高校は内部進学でも受験が必要で、一定数の生徒は高校に進学できません)
このうちリベンジ組には、中学入試合格組は含まれませんので、中学入学当初は、かなり上位の成績が期待されます。
もちろん勉強しなくなれば、あっという間に成績は下がるのですが、中学受験で偏差値50ちょっとの生徒でも、簡単に60を超えてしまうので、自信がついて、そのまま上位校に合格していく生徒を多々見てきました。
また、早慶に関して言えば、受験科目は3科目ですので、もともと中学受験で培った国語力に加え、英語・数学の基本をしっかり身につければ、気づけば合格圏内に安泰しているはずです。
女子は注意! 男女で異なる難関高校の定員
ただし、気をつけてほしいのが、女子の市場の小ささです。
以下に、早慶の男女別定員をまとめてあります。
慶應義塾高校 370
慶應義塾志木高校 190
早稲田大学高等学院 360
早稲田実業高校 80(加えて推薦は男女計60)
合計 1,000(加えて早実の推薦男女計60)
慶應女子高校 100
早稲田実業高校 40(加えて推薦は男女計60)
合計 140(加えて早実の推薦男女計60)
難関校限定では、女子の進学先は極端に少ないのです。
早慶以外を見渡しても、学芸や筑附などの国立や渋幕など一部の私立高校があるだけで、選択肢は非常に少ないことを知っておく必要があります。
特に神奈川県は絶望的です。中学受験ですと、フェリス女学院などの進学校がありますが、それもありません。地域によっては、高校受験でのリベンジは公立しか選択肢がないということにもなりかねません。これは、中学受験で、万が一希望通りにいかなかった場合、高校受験でのリベンジを目指すのかいなかの選択にも大いに影響してきます。
まとめ
近年、男子では海城高校、女子では豊島丘女子高校など、高校からの募集停止が相次いでいます。私立学校にとって、6年間というゆとりのある期間のなかで、学習のみならず、課外活動を含めた過つづを通じて学校の教育理念を実現する傾向は高まっています。
一方、公立高校は、もともと浦和高校など公立が強い埼玉、都立復権を果たした東京、それにおさえて一時公立離れが進んだものの再び巻き返しを図っている神奈川など、どの都県でも公立トップ校の人気は高まっています。
公立トップ校を目指すという選択肢は広がってはいますが、私立を目指すかどうかで、3年間の学習方針は大きく異なります。家庭や本人の希望により近い進路をどう目指していくのか、早い段階から市場規模というものを把握した上で、戦略を練る必要があります。
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