志望校を決める上で、どうしても気になる「偏差値」。
中学受験では、四谷大塚の「合不合判定」やサピックスオープンなどの偏差値に一喜一憂したり、「高い偏差値」の学校に憧れたりしますよね。
一方、将来の大学受験を意識したときに、サピックスなどの「偏差値」とは別の指標が存在します。
それが鉄緑会の「指定校」であるか否かです。
「学歴社会」で意識される出身高校
コロナ禍の2021年も、中学受験熱は衰えることはありません。
むしろ、先行きが不透明な世の中だからこそ、中高一貫の私立中学に入学し、高校受験のない環境でじっくりと大学受験や部活動、趣味、もしくは留学などの経験を積みたいという考えの方も多くいらっしゃるようです。
中学・高校という6年間を公立で過ごすのか、校風に特徴のある私立で過ごすのかのかは、どちらが優れているとか「学歴」だとか、そういう意味とはまったく別で、人生観や将来(一生)の交友関係も左右することになる大きな選択です。
仮に「学歴社会」の頂点を東京大学だとしたときに、このところは外資系企業など、進路はさまざまになってきましたが、かつては大蔵省、現在の財務省をはじめとする官公庁の官僚というのが、1つのエリートコースでした。彼らは東大卒であることは当然の前提であり、同胞意識は、出身高校を持って共有されるケースが多いようです。
学校ごとに、人的ネットワークが形成されたり、さまざまな価値観の人間が世の中に送り出されたりする。学校に求められているのは、特徴ある「多様性」です。
サピックスから鉄緑会という「学歴」
一方で、画一性が形成されているのが、塾の学歴、言うならば「塾歴」です。
中学受験では、地域によって異なりますが、関東では四谷大塚・日能研・サピックスという大手の3つの塾がしのぎを削り、多くの中学受験生たちがこの3つの塾や早稲田アカデミーなどの進学塾で受験対策をすることになります。
なかでも、サピックスは、昭和からの長い歴史を持つ四谷や日能研に比べれば新しい塾ですが、開成中学や桜蔭中学など、トップ校で抜群の合格実績をあげ、とかく注目される存在になっています。
例えば、男子トップ校の1つ、開成中学の塾別の合格実績は、次のようになっています。
塾 | 合格者数 |
サピックス | 286 |
早稲田アカデミー | 111 |
四谷大塚 | 106 |
日能研 | 38 |
浜学園 | 24 |
ご覧にように、サピックスの合格実績は、他の塾を圧倒しています。
「開成を目指すならばサピックス」というのは受験生の不文律のような状態になっています。
そのサピックスで難関校を合格した生徒たちが、次なる目標、東京大学を目指して通うのが、鉄緑会です。
鉄緑会とは
鉄緑会の鉄は東大医学部の同窓会組織「鉄門倶楽部」の鉄、緑は東大法学部の同窓会組織「緑会」の緑で、講師も東大卒の専任講師や東大生・東大卒業生が占めています。
2020年の合格実績は、次のようになっています。
東京大学 439 名合格
理科一類 | 159 |
理科二類 | 71 |
理科三類 | 40(定員 100 ) |
文科一類 | 88 |
文科二類 | 44 |
文科三類 | 37 |
全国の全大学・全学部の最高峰「東大理三(東大医学部)」には定員100のうち40名の合格者を輩出していることからわかるとおり、非常に高い実績を誇る塾です。
現役生対象の塾で、現役のみの東大合格実績で言えば、東進の802名に次ぐ第2位で、東進は全国のフランチャイズも含んでいますから、実質の第1位と考えてもいいでしょう。
しかも、教室は代々木の1拠点のみ(一応「鉄緑会大阪校」という系列もあります)。
サピックスの「α」 鉄緑会の「指定校」
偏差値よりパワーワードの「α」
サピックスでは「α」というクラスが、子どもたちの目標であり、難関校に入るための条件のようなものにもなっています。
サピックスオープンなどの模試での「偏差値」も合格可能性を判断する上での重要な指針ではありますが、むしろ日常的には、在籍するクラスのほうが、子どもたちにとっては身近な指標であり、サピックスの大規模校舎のαコースに在籍していることは、サピックス内外に通用するステータスのようなものにもなっています。
親御さん世代の「四谷大塚の中野」のようなイメージでしょうか。
鉄緑会の「指定校」
一方、鉄緑会の特徴としてまず挙げられるのが「指定校制度」です。
鉄緑会のウェブサイトには、次のように記載されています。
鉄緑会では原則として東大進学有名校に通う方のみを指定校生徒として受け入れており、さらに内部では学力別のクラス編成をしています。年2回の校内模試などを通して、ハイレベルなライバルたちと共に競い合い、また時には助け合う。そうしたよき仲間たちに恵まれるのが鉄緑会という場なのです。
鉄緑会指定校・在籍生徒数一覧(2021年1月現在)
開成 | 994 名 |
桜蔭 | 811 名 |
筑大駒場 | 557 名 |
麻布 | 407 名 |
駒場東邦 | 331 名 |
海城 | 426 名 |
筑大附 | 370 名 |
豊島岡 | 352 名 |
女子学院 | 204 名 |
雙葉 | 217 名 |
渋谷幕張 | 188 名 |
栄光学園 | 100 名 |
聖光学院 | 97 名 |
指定校の生徒は、中学入学の時点において鉄緑会に無条件で入塾できます。
それ以外の学校の生徒たちは、入塾のために難関の試験を通過しなければならず、在籍者数も、指定校と大差であることから、「指定校」であるかないかには大きな違いがあるの
上記の指定校のうち、開成は中学が1学年定員300人、高校は400人、全校生徒2100人です。
実に半数近くの開成生が鉄緑会に通っているわけです。
つまり、
という王道のようなものが存在するわけです。サピックスで開成を目指し、合格を果たした生徒たちは、学校で「運動会」のような行事に汗も流しながら、鉄緑会に通い、東大を目指す。小学校から大学まで似たような人生を歩んでいくことになります。
サピックス偏差値60以上でも「指定校」ではない
さて、鉄緑会の指定校ですが、サピックスの偏差値でどのような学校なのでしょうか?
こちらはサピックスの偏差値の目安です。60以上をまとめてあります。
赤字が鉄緑会の「指定校」です。
男子校 | 偏差値 | 女子校 |
筑波大学附属駒場 | 70 | |
開成 | 67 | |
渋谷教育学園幕張 | 65 | 渋谷教育学園幕張中学校 1次 |
聖光学院(2回) | ||
栄東 東大特待(算数1科型) | 64 | 栄東 東大特待(算数1科型) |
渋谷教育学園幕張2次 | 渋谷教育学園幕張2次 | |
渋谷教育学園渋谷(3回) | 慶應中等部 | |
聖光学院(1回) | 渋谷教育学園渋谷(3回) | |
渋谷教育学園渋谷(2回) | 63 | 渋谷教育学園渋谷(2回) |
早稲田 | ||
麻布 | 62 | 桜蔭 |
栄光学園 | 豊島岡女子2回 | |
海城 | 筑波大学附属 | |
豊島岡女子3回 | ||
栄東中学校 東大特待(4科型) | 61 | 栄東中学校 東大特待(4科型) |
広尾学園中学校 医進・サイエンス | 女子学院 | |
巣鴨中学校 算数選抜 | 豊島岡女子1回 | |
筑波大学附属 | 広尾学園中学校 医進・サイエンス | |
武蔵 | 60 | 昭和学院秀英(午後特別) |
昭和学院秀英(午後特別) | 渋谷教育学園渋谷(1回) | |
広尾学園中学校 2回インターナショナルSG | 広尾学園中学校 2回インターナショナルSG | |
鎌倉学園中学校 算数選抜 | 慶應湘南藤沢(SFC) | |
東京都立小石川中等教育 |
なお、試験によって偏差値は異なります。偏差値についてはこちらの記事を参考にしてください。
サピックスで偏差値60は、どの学校もかなりの難関ですが、それでも鉄緑会の「指定校」に入っていない学校もあります(早慶附属は大学受験が前提ではありませんので入っていません)。
栄東など、試験そのものの難易度は難しくても、東大に合格するという観点から相応の実力の生徒が揃っていると認められないと「指定校」には入らないのです。
かつての男子御三家の「武蔵」は圏外ですし、渋渋も入っていません。
中学入試のランキング=東大受験の世界でのランキングではないのです。
鉄緑会「指定校」という、もう1つの「偏差値」
進学は、偏差値が全てではありませんし、大学受験がゴールでもありません。
近年は、上の表にもある海城や渋谷教育学園のように、国際教育に力を入れて人気を集め、実際に海外の一流大学の合格実績を伸ばしている学校もあり、学校選択は、過去にも増して子供をどういう大人に育てたいのか?教育方針に直結するものです。
子供の希望の職業なんて、中学高校、大学で大きく変わりますが、それでも「自分と同じように医者になってもらいたい」のか「Googleのような世界の大企業で活躍してもらいたい」のかでは、学校選択の基準は異なります。
最近は、様々な業界から校長を招致して、独特の学校教育に力を入れていますので、こちらの記事もぜひお読み下さい。
一方で、多くの子供の将来は未知数であり、「少しでもレベルの高い学校」で将来の選択肢を広げておきたいという考えも、それはそれで1つの考え方でしょう。
そうした場合、「サピックスの偏差値表」といった、今現在の成績を判断する指標だけを頼りにするのはあまり得策ではないと思います。
中学に進んだ時に「鉄緑会の指定校であるかないか」といった違いもある、「学校のランキングにはさまざまな指標がある」ということを頭の片隅に入れて、ベストな志望校選択を進めてみていただきたいと思います。
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