中学入試において、理科・社会の基礎知識の「暗記」は避けて通れません。
特に難関校の合格実績が高いサピックスの生徒がバイブルのように活用するのが理科と社会の『コアプラス』。
男女御三家や早慶大学附属中学をはじめとする難関校は、それぞれの学校の出題傾向に応じた対策が不可欠ですが、その前提は、難関校の受験生の多くが身につけている基礎知識。
『コアプラス』はどのように活用していけばいいのか、元サピックス社会講師が詳しく解説します。
*学習法は、四谷大塚の『四科のまとめ』や日能研の『メモリーチェック』にも適用可能です。
コアプラスとは
サピックスメソッドを公開した、数少ない市販教材
難関校への高い合格実績を誇るサピックスの特徴は、そのオリジナルテキスト。
ホームページにも次のように特徴が記されています。
サピックスで使われる豊富な教材は、すべて講師と教材開発スタッフによる『オリジナル教材』です。各教科の講師は、常に入試問題の研究を行っています。その成果は、授業にはもちろん、教材にも絶えず反映させています。学習の中心となる教材は、平常授業で使われる『デイリーサピックス』です。
理科・社会ではカラー写真を豊富に使用し、子どもたちの興味を引き出す工夫がなされており、低学年用の教材では、紙面にキャラクターを登場させるなどして、楽しく学べるようにしています。
(サピックスのウェブサイトより)
一方、サピックス生が、こうしたオリジナル教材と併用して活用するのが、市販されている『コアプラス』です。
理科と社会の2冊が発行されています。
社会の『コアプラス』の冒頭には次のように記されています。
この「社会コアプラス」は、中学入試・社会で出題される重要事項から、「核」となる知識を厳選し、まとめた問題集です。本書を用いれば、入試問題を解くために必要な不可欠な知識を、効率良く身につけることができます。
基本的には、一問一答の構成で、地理・歴史・公民の3分野を網羅し、大問720問、小問の数では数千に及びます。
解答は赤字で印刷され、付属の「赤シート」を活用することで、答えを隠しながら、細切れの時間に知識の活用ができるような工夫が施されています。
『コアプラス』のサブタイトルには「サピックスメソッド」というワードが入っていますが、この教材は、サピックス生も肌見放さず活用する、サピックスのメソッドが詰まった市販教材です。
同種の教材としては四谷大塚の「四科のまとめ」などがありますが、サピックス生が活用する前提で作られた『コアプラス』は、その内容、使い勝手ともに他を圧倒する、優秀な教材です。
あらゆる中学受験生、必携の書とも言える存在になっているのです。
特に、ご両親に中学受験の経験がなく、お一人目のお子様の受験の際、何をやればいいのかわからない状況で起こりがちです。
評判のいい教材に早い段階で出会い、それをじっくり使いこなすことは合格への近道です。
その意味で、サピックスという中学受験最大手の塾の生徒が活用する教材は、大いに役に立つはずです。
サピックス生にとっては、「木と森を見られる」数少ない教材
『コアプラス』は、コンパクトな1冊で、基礎知識を網羅できるのが特徴です。
特に、分冊化されたテキストを活用するサピックス生にとっては、全分野がまとまった、受験の全体像を把握できる、数少ない教材でもあります。
サピックスのオリジナルテキストは、演習量を確保するために最善の形式で、毎週大量の宿題をこなしていくことで、相当の実力が身につくように設計されています。
しかし、ともすると「木を見て森を見ず」の状態に陥るリスクもあるのです。
サピックス生が『コアプラス』を使用しはじめるのは小学5年生。入試までの2年間「デイリーサピックス」やこの『コアプラス』などを活用して地理・歴史・公民の基礎知識を身に着け、さらには思考力や分析力、記述力など、難関校突破に必要な能力を身に着けていくことになります。
2年間活用し続ける数少ないテキストであるがゆえに、その使い方も「戦略的」に行う必要があるのです。
【基本編】コアプラスの使い方
短期間に何度も繰り返すことが大事
前述したとおり、サピックスでは、4・5年生で地理、5・6年生で歴史、そして6年生の1学期に公民を学習し、夏休み以降は、反復学習による基礎力の補強、また学校別の対策などに取り組んでいきます。
通常の授業で使用されるのは「デイリーサピックス」。地理では「アトラス地図帳」や「白地図トレーニング」などの副教材も活用しながら、新単元を学んでいきます。
その補強として使われるのが『コアプラス』です。
コアプラスとは2年間もおともすることになります。
まず重要なのは、とにかく何度も繰り返すことで。
「一問一答」という形式は、基礎知識の定着に非常に向いていますよ。
こちらは、ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスが明らかにした「エビングハウスの忘却曲線」です。
記憶というのは、青い曲線のように、復習をしないとほとんど忘れられていきます。
しかし、赤線のように、復習を繰り返すことによって、徐々に長期記憶として定着していきます。
エビングハウスは、1度学習してから次の復習までの時間が短ければ短いほど、次の記憶に必要な負担が少なくなるということを導き出しました。
記憶を長期記憶として定着させるためには、できるだけ少ない負担で、できるだけ頻繁に復習することが大切です。
コアプラスは、答えが問題文の右側に掲載され、細切れの時間を使って、気軽に知識の定着を図れるように工夫されています。
サピックスは教材が多いけど、コアプラスはどのように使えばいいのかしら?
新たな単元を学んだら、とりあえずは『コアプラス』にとりかかりましょう。『コアプラス』に触れることで、習った単元の中で、「コア」となる部分がどこかがわかり、効率的に暗記することができます。
まずは「デイリーサピックス」の「デイリーチェック」などを完璧にしてから取り掛かろうと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、「デイリーサピックス」の方が、学ぶ知識の分量は多いですから、まずは『コアプラス』に取り掛かったほうが効率的のです。
コアプラスを解いて、わからなかったところ、疑問点は、「デイリーサピックス」などのテキストに立ち戻って、もう一度学習し直す。
その繰り返しで、基礎知識は驚くほど効率的に身についていくはずです。
書いたり、唱えたり…。覚え方は1つだけではない
ここまで、『コアプラス』は繰り返し学習することが必要だということをお話しました。
これが一番大切です。
言わずもがなですが、難関校の入試では、基本的な知識は記述問題として出題されることが多くあります。
たとえば、コアプラスにはこのような問題が掲載されています。
(一部改変、(画像は国立国会図書館より)
① この絵は、……東海道各地の様子を描いたものです。これを何といいますか。
② ①の絵を描いた人物はだれですか。
一方、2021年の開成中学では次のような問題が出題されました。
「東海道五十三次」の作者を漢字で答えなさい。
(答え)歌川(安藤)広重
このように、中学入試では、「漢字」で用語を答えさせる問題が頻出します。
知識としては『コアプラス』にも掲載された基本的なもので、開成中学の受験生なら確実に得点したいところですが、漢字で答えられなければ元も子もないですよね
社会の学習は、用語を正しく書けることが不可欠です。特に1回目の学習の際は、用語が思い浮かぶか、そして正しく書けるかどうかを確認するため、必ずノートに答えを書くようにしましょう。
そして、ポイントは…
とても小さい文字で構いませんので、○✗を記入していきます。
- 時間がないときや、テストの直前などは、前回✗だったとこだけを回していきます。
- もう少し時間がある時は、前回○だったけれども、その前は✗だった、まだ記憶が定着していないと思われる箇所を回していきます。
- 時間があるときは、すべての問題を回していきます。
状況応じて、状況に応じてメリハリをつけた学習ができるようになりますよ。
なお、○✗は鉛筆で書き込むようにしましょう。
○✗は成長の証でもあり、これだけやったんだという自信にも繋がります。
一方で、何度も繰り返し使っていくと、6年生の夏休みなど、どこかのタイミングで1度リセットして使いたいことがあるかもしれません。
ペンで記入してしまうと、昔の自分の汚点が残ってしまったり、ごちゃごちゃしすぎて、見づらいという状況が生じることもありえます。
長い間使う問題集だという前提で活用していきましょう。
難関校でコアプラスはどう生きる?
御三家でもコアプラスからそのまま出題される
さきほど、開成中学での出題例をご紹介しました。
開成などの男女御三家レベルの学校でも、コアレベルに記載された知識は、そのまま問われることが多くあります。
基礎知識の問題集だからと、バカにしないで、1冊確実に身につけられるようにしましょう。
実際、取り組んでみると、「コア」の知識だけでも膨大で、それを入試までに網羅するのは大変だということが身を持って感じられるはずです。
用語の暗記だけで通用しない入試問題にも対応するために
一方で、難関校の対策においては、一問一答の解答を答えられるだけでは足りないケースも多々あります。
たとえば、2021年の渋谷教育学園幕張中学の問題です。
「座」とはどのようなものだったかについて、文の最後が組合で終わるように、解答用紙のわく内で説明しなさい。
一方、『コアプラス』には次のような問題が掲載されています。
鎌倉時代から室町時代にかけて成長した、商工業者の同業組合を何といいますか。
(答え)座
渋谷幕張の問題は、『コアプラス』と逆で、問題文の内容を答えさせる問題ですね。
『コアプラス』は、もっとも重要な用語が答えられるようになることを目的作られています。
一方、難関校では「用語」の意味の理解を問う記述問題が出題されます。
最終的には、答えを見てその用語の意味、つまり問題文の内容を答えられるようにならなければなりません。
さらに、『コアプラス』はあくまで重要知識の暗記用教材だということです。
体系的な理解は、テキストを読み込んだり、多くの入試問題を解くなかで身についていきます。
また、地理の資料問題、社会の年代並び替え問題などへの対応力は、『コアプラス』だけでは身につきません。
用語を答えるだけの勉強を繰り返していると、体系的に理解するという勉強の基本が身につかなくなるので要注意です。
※サピックスには、「白地図トレーニング帳」や「年代トレーニング帳」などの教材があります。
【発展編】コアプラスの使い方 「一問三答」化しちゃえ!
では、さきほどの渋谷幕張の問題のように、問題文の内容を答えさせる問題に対応するためには、どのような学習をしていけばよいのでしょうか?
『コアプラス』には次のような問題が掲載されていました。
鎌倉時代から室町時代にかけて成長した、商工業者の同業組合を何といいますか。
(答え)座
おすすめするのが、コアプラスの「一問三答」化です。
使用するのは、大学受験勉強でよく使われるチェックペン、問題文の中の重要用語にラインを引いていきます。
問題文の中で、「座」という言葉に次いで重要なのは、「商工業者の同業組合」という部分。まさに「座」の意味となるところです。そこにチェックペンを引いて問題化します。緑のチェックペンを使えば、コアプラスについている赤シートで隠せますね。
次に問われそうなのが「鎌倉時代から室町時代」という部分ですね。年代問題に対応するものです。そこは赤のチェックペンでラインを引いておけば、あとで緑のチェックシートで隠すことが出来ます。
鎌倉時代から室町時代にかけて成長した、商工業者の同業組合を何といいますか。
(答え)座
赤と緑のチェックペンで1箇所ずつラインを引いて問題化することで、こんなかんじに!3通りの解答ができるようになりました!
1粒で3つおいしい問題に変えることができるというわけですね。
ここまで『コアプラス』を使いこなすことができれば、多くの難関校の知識問題は、難なく対応できるようになります。
たとえば、2021年の桜蔭中学の入試問題。
1989年に米ソ両国の首脳によって( )の終結が宣言されました。
( )内に入る語を漢字で答えさせる問題です。
コアプラスには次のように掲載されています。
1989年、アメリカとソ連の首脳が冷戦終結について合意した会談を何といいますか。
(答え)マルタ会談
この問題は、冷戦という最重要ワードや1989年という重要年代に緑のチェックペンでラインを引きます。
また、アメリカ・ソ連という国名を答えさせる問題も出題される可能性がありますので、ここには赤でラインを引くという要領で、さまざまな方式でこの問題を使いこなすことができるようになるわけです。
1989年、アメリカとソ連の首脳が冷戦終結について合意した会談を何といいますか。
(答え)マルタ会談
ここでは「一問三答」化をおすすめしましたが、チェックペン1色だけを使ってもよいですよ。
無理に色分けしようとすると、どこが赤、緑と悩むこともありますので、緑のチェックペンだけを用意して、少しずつ塗る箇所を増やしていき、最終的に穴埋めだらけの問題でも答えられるようにするのも1つのやり方です。
1989年、アメリカとソ連の首脳が冷戦終結について合意した会談を何といいますか。
(答え)マルタ会談
緑のチェック部分、「マルタ会談」というもとの解答、すべてを赤シートで覆って、すべて答えられるようになれば、知識は完璧なはずです。
こうした学習を繰り返して、少しずつ知識・理解を深めていけば、答えを見て、問題文を一人で諳んじることができるようになっていると思います。そうすれば、「座」の意味を答えさせる渋谷幕張の問題のような記述問題にも対応できるようになります。
あくまで目的は、問題文の中にある用語も答えられるようにすることと、用語の意味を説明できるようになることです。
なお、ラインを引く箇所を決めるのは、子供には負担ですので、そこは親御様がお手伝いすることをおすすめします。
忘れても構わない、入試直前まで繰り返すこと
1度にすべて覚えることができないのは、さきほど「エビングハウスの忘却曲線」で説明したとおり、人間の脳がそのようにできているからにすぎず、全く気にすることはありません。
大切なことは、科学的に正しい方法で記憶の定着を図ること、とにかく繰り返すことです。
とはいえ、中学受験生はやらなくてはいけないことがたくさんあり、子供だけで計画的に記憶の時間をとることは難しいかもしれません。
その点は、各ご家庭で、『コアプラス』などに取り組む時間の指標をつくってあげることが大切です。毎日1回でも、週に3回でも、それぞれのお子様の状況に応じてスケジュールを考えてあげてください。
そうして、知識を定着が進めば、おのずと勉強は好きになり、子供たちも、自分に何が足りないのか、何をやればいいのか、自分自身で判断できるようになっていきます。
『コアプラス』は難関校を受験するサピックス生が最後まで使う参考書。合格体験記などでも紹介されるものですから、『コアプラス』しっかり勉強することは、受験生にとってちょっと自慢にもなるようなものです。進んで通塾の電車の中で、得意げに『コアプラス』を広げて知識の総仕上げを行うようになれば、きっと難関校の合格も近いはずです。
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