中学受験にあたって、「大学進学校」に進むのか、「大学附属校」に進むのかは、1つの大きな選択です。
「大学附属校」は、大学受験がないというメリットが強調されますが、希望する学部や、学校によっては、進学校同様、塾通いや勉強が必要になるケースもあります。全員が大学に進学できるわけでもありません。
「進学校」のように、6年後に必然的に「出口」がやってくるわけではない分、「入口」の戦略はより重要になってきます。
早慶附属校という選択肢
不動の2大人気校、早慶 変化し続ける一貫教育校の体制
いわゆる大学附属校の中で、不動の人気を誇るのは慶応・早稲田ですね。
四谷大塚の偏差値(2020年参考)で各校の難易度を男女別に見てみます。
65 慶應湘南藤沢(2/2)
64 慶應普通部(2/1)・慶應中等部(2/3)・早稲田(2/1,3)
63 早稲田実業(2/1)・早大学院(2/1)
65 慶應湘南藤沢(2/2) ・慶應中等部(2/3)・早稲田実業(2/1)
2000年代以降、早稲田実業の共学化・早稲田大学高等学院中等部の新設、慶應は2010年代に横浜初等部の新設とSFCの一貫教育など、附属校の環境は変化し続けています。
【慶應と早稲田 主な附属校】
学校名 | 種別 | 男女別 | 定員 (2021年) |
慶應義塾中等部 | 一貫教育校 | 共学 | 男子140 女子50 |
慶應義塾普通部 | 一貫教育校 | 男子校 | 180 |
慶應義塾湘南藤沢中等部 | 一貫教育校 | 共学 | 100 |
早稲田大学高等学院中等部 | 附属校 | 男子校 | 120 |
早稲田実業中等部 | 系属校 | 共学 | 225 |
早稲田中学校 | 系属校 | 男子校 | 300 |
慶應普通部と早大学院、早稲田中は男子校で、女子の定員は男子より少ないですね。慶應中等部も定員は男子のほうが多いんですね。
早慶に関しては、特に、女子の難易度が高い傾向にあります。
定員、選択できる学校が少ないためです。
なお、この傾向は高校受験でも同様で、特に慶応女子高校は国公立の最難関を含めて最難関となっています。
一貫教育のメリットは「エスカレーター」?
大学附属校のメリットとしてあげられるのは、「エスカレーター」ですね。
一度中学に入れば、中学→高校→大学と内部進学ができ、厳しい大学受験の勉強なしに大学卒業できるのは、大きなメリットで、そこが附属校人気のポイントです。
受験がないメリットを生かして、国際教育や文化芸術活動・スポーツ活動などにも力を入れています。
勉強だけではなく、スポーツでも、野球では、早稲田実業は甲子園常連校ですし、慶應義塾高校も何度も甲子園出場経験があります。
両校とも、推薦入試制度などを取り入れていますが、中学や高校から入学した生徒たちが、全国レベルで活躍、「文武両道」を実現しています。
一方、こうしたメリットが強調されがちですが、希望する進路によっては、今後も厳しい受験勉強が待ち構えています。
特に「医学部」を希望するケースです。
慶應に医学部はありますが、その推薦枠は非常に少なく、医学部志望の場合、一般の受験生同様に受験勉強に臨むことになります。
また、早稲田中学は、推薦枠は生徒数の半数程度で、残りの生徒は東大をはじめとする外部の大学を受験する「進学校」の側面もあります。
附属校を選ぶとき、多くの場合、それはイコール大学選択だから、こうした事情を理解することが、進学校以上に大事ですね。
では、早慶それぞれの特徴を見ていきましょう。
慶應義塾の「一貫教育校」
高校で別れる進路
慶應では、いわゆる附属校のことを「一貫教育校」と呼んでいます。
そして、中学入学段階では、中等部・普通部・湘南藤沢の3つのルートがあります。
このうち湘南藤沢は、横浜初等部からの内部進学生と合流し、そのまま高等部に進みます。
一方、中等部のうち男子は、慶應義塾高校か志木高校を選択、女子は慶應義塾女子高校に進学します。
また、普通部は慶應義塾高校か志木高校に進学します。
医学部は狭き道、外部受験も
慶應の場合、高校の卒業資格を得られれば、基本的に大学への内部進学が可能です。
慶應義塾高校の場合、2020年(2019年度)の卒業生数808名のうち慶應義塾大学に推薦されたのは797名で、その他の進路を選んだのは11人のみで、他の大学の医学部に進学するケースがほとんどです。
ただし、志望する学部に自由に進めるわけではありません。学部ごとに推薦の枠があり、法学部などの人気学部については、学校の成績順で割り振りが決まってしまうのです。特に難関は医学部です。
この年、医学部に進学したのは22人。
成績優秀者のなかにほかの学部の希望者もいますが、それでも学年800人中、上位30位以内に入らないと推薦を得ることは難しい、超難関です。
つまり、中等部や普通部に合格できても、6年後、校内で上位3%に入らないと医学部に進学することはできません。
そのため、医学部志望の生徒は、「遠山数理教育研究会」など、内部進学での医学部対策を得意にしている塾に早ければ中学のころから通い、受験勉強にあたります。
内部進学を得られない場合、外部の医学部の受験という選択肢を選ぶことになります。
とはいえ、受験がないメリットも
とはいえ、大学受験があるとできない勉強に取り組むことができるのは、附属校の最大のメリットです。
最近では、普通部時代に法律に関心を持ち、高校入学と同時に司法試験予備校に通いだして、大学1年にして史上最年少で司法試験に合格された方もいらっしゃいます。
慶應では、高校から公認会計士試験の学習を開始している生徒も少なからずいます。
「大学の先」の目標に向けて、早い段階から動き出せるのは、附属校の大きなメリットです。
もちろん、こうした環境をうまく生かせず、「ドロップアウト」してしまう生徒もいます(これは進学校でも同様ですね)。
附属校への進学は、決して「大学進学の切符」を得ることではありません。
なぜ、その学校に進みたいのか?中学入学から「6年後の出口」がない分、より長いスパンで、人生設計をする必要があるわけです。
早稲田の「附属校」と「系属校」
附属校と系属校
早稲田では、学内で正式に「附属校」と呼ばれているのは、早稲田大学高等学院中等部と本庄高等学院(高校のみで中学はなし)のみです。
その他の学校は、「系属校」と呼ばれています。
【附属校】
- 経営母体は同一法人(早稲田大学)
- 卒業生は原則として全員早稲田大学へ進学する
【系属校】
- 経営母体は別法人となるが、学校名称には 「早稲田」の名を冠する
- 理事、事務局長等を早稲田大学より派遣
- 早稲田大学への推薦枠数は学校ごとに異なる
早稲田中学は進学校、東大、医学部も
そして、特に特徴的なのが「早稲田中学」です。
もっとも”オーソドックス”な名称ですが、系属校に属し、早稲田大学への推薦枠数が少ないのが特徴です。
2020年 | 2019年 | 2018年 | |
卒業生数 | 306 | 300 | 298 |
早稲田大学推薦進学者 | 164 | 152 | 138 |
指定校推薦進学者 | 3 | 4 | 4 |
現役受験者数 | 139 | 144 | 156 |
卒業生のうち、早稲田大学に推薦で進学するのは約半数。
その他の進学先はさまざまで、特に最近は東京大学への合格者数が増えています。
決して、多くの卒業生が早稲田を志しているわけではありません。
2018年 38人
2019年 30人
2020年 27人
卒業生の10人に1人が東大に進学しているのです。
さらに、国公立・私立の医学部進学者も例年20人前後はいます。
進学率で言うと、6.6%。
慶應義塾高校から内部進学で慶應の医学部に進学できる割合の2倍です。
決して、医学部の近道は慶應の内部進学ではないのです。
つまり、早稲田大学には医学部はありませんが、こと早稲田中学に関しては、外部受験で医学部に進む選択肢は完全に残されているということです。
その意味で、早稲田中学は、学校の成績をしっかりとってそのまま早稲田に進む道もあれば、東大や慶應、また医学部などにチャレンジする生徒もいる、極めて独特の学校です。
実際、早稲田中学・高校の生徒には、鉄緑会に通う生徒が多くいます。
早稲田に絶対に行きたいなら早実、早稲田の学風のもと将来の可能性を広げたいなら早稲田中という考え方ができます。
附属校からの大学受験で、別大学へステップアップも
ここでは附属校のうち、特に人気の早慶の概要を見てきましたが、附属校から大学への進学のルールは、学校によってそれぞれ異なります。
明治では、推薦の権利を残したまま「国立大学は受験可能」であったり、法政では「国立・私立とも受験可能」などの対応をとっています。
附属校だから「大学までエスカレーター」、もしくは一度入ってしまったらさらに高みを望めないというわけではないんですね。
とはいえ、附属校には、それぞれ大学以下一貫した「独自の校風」があり、それが魅力でもあります。
学校選びの際は、①どういった校風で教育を受けたいのか、そして②どういった進路に進みたいのか、それぞれの面でよく考えていただきたいと思います。
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