東京大学合格発表は、受験生本人やご家族のみならず、将来の東大入学を志す中学・高校受験生やその家族にとっても大きな関心事です。
コロナ禍によって、ここ数十年でも異例の形となった2021年も例外ではありませんでした。
そして、2021年、ひときわ目立った公立高校の合格者数増加のニュース。来年の中学・高校受験にも影響が現れそうです。
そして、その結果が訪れるのが、2024年そして2028年の大学入試です。
4年後現象、7年後現象 〜学校も欲しい「優秀な子」
学校別の東大合格者数を予測する際の1つの指標になるのが「4年後現象」「7年後現象」です。
簡単に言うと、東大合格者が伸びる → 翌年の入試では人気が高まり受験が難化 → その年の入学者が卒業する年の合格実績はまた伸びるというものです。
進学に力を入れる学校は、もちろんその教育課程のなかで生徒の学力向上を目指しますが、現実的には、入試のレベルが高くなればなるほど、つまり優秀な生徒が多く集まれば集まるほど、大学広角実績も高くなるのです。
これは塾も同じ。サピックスや早稲田アカデミーなどの大手塾は、いかにして優秀な生徒を集めようと宣伝広告しています。
「4年後現象」が現れた横浜翠嵐高校
2021年の東大合格実績で注目を集めたのが、公立では東京都立日比谷高校と神奈川県立横浜翠嵐高校。関西の西大和学園も、受験業界では知られる存在だったのが、多くの人に認知されるに至りました。聖光学院も神奈川トップ校としての存在感を高めています。
公立の、都立日比谷高校はすでに注目が高まる存在ですが、神奈川県立横浜翠嵐高校は、これまでの飛躍の経緯を知らない多くの方にとっては、ダークホース的存在だったようです。
コロナが背景?とかいろいろ囁かれますが、実は2021年の横浜翠嵐高校の東大合格実績の躍進は、業界的には4年前から注目されていました。
4年前の2017年、東大合格実績躍進で集まった注目
2017年7月のNIKKEI STYLEの記事では、「東大合格校に異変 公立トップへ横浜翠嵐の熱血教員団」というタイトルで横浜翠嵐高校の東大合格者数の躍進が記事になっています。
横浜市の名門県立高、横浜翠嵐高校。東大合格者数は2000年には1人にまで落ち込んだが、17年は34人と躍進し、「東大合格校に異変」と話題になった。難関大学の受験で中高一貫校の優位が続くなか、都立日比谷高校に次いで「公立校の逆襲」の台風の目となっている翠嵐。
2017年の横浜翠嵐の東大合格者数は34人。前年の20人から伸ばして、同じ神奈川県の私立中高一貫校、浅野を上回る実績を残しました。聖光学院・栄光学園に次ぐ県内3位の実績となったのです。
2018年入試では神奈川随一の人気校に
さきほどの記事のように、横浜翠嵐は教育関係者のみならず、マスコミからも注目される存在となりました。
そして、この横浜翠嵐の輝かしい実績は、神奈川県内の中学生にも知れ渡ることになります。
神奈川県教育委員会は、毎年秋、中学3年生を対象に「進路希望調査」を行っています。
そこで、横浜翠嵐は358人の募集定員に対し、855人が希望することになったのです。
同調査で単独の学校で800人超の希望者が出るのは史上初めてで、神奈川新聞などでも話題となりました。
2012年 | 620人 |
2013年 | 781人 |
2014年 | 696人 |
2015年 | 732人 |
2016年 | 786人 |
2017年 | 855人 |
そして、2018年の高校入試で、横浜翠嵐高校は以前にもまして人気校となり、2.08倍と、前年の1.82倍から大きくアップする結果となったのです。
2倍超という公立高校としては高い倍率の入試を突破した入学生はハイレベルな生徒たち。
インターネット上でも、当時から「3〜4年以内に、横浜翠嵐高校が日本一の公立進学校になる」などと見出しをつけた記事などが書かれ、にわかに注目を集めていたのです。
学芸大附属高校のいじめ問題も要因に
なお、高校の勢力図の変遷は、決して東大の合格実績だけで決まるわけではありません。
この年、横浜翠嵐が人気を集めたもう一つの要因は、学芸大学附属高校のいじめ問題です。
少し遡る2016年、集団のいじめ事件で生徒が骨折などの大けがをする問題が発覚しました。
学芸大学附属高校は、高校入試では女子の進学校としては偏差値最高峰、また男子も高い人気を誇る学校でした。中学受験での学芸大附属の各学校よりも格段に高い偏差値でしたが、この1件で急速に人気を失います。
神奈川県在住の学芸大附属高の合格者でそのまま進学したのは半数以下、半分以上は横浜翠嵐や湘南高校などの公立を選ぶことになりました。
2018年入試の時点で、横浜翠嵐は、もはや私立国立に後塵を拝す「2番手校」ではなくなっていたのです。
布石はさらに4年さかのぼり…
さきほどの「進路希望調査」の表で、2013年にも横浜翠嵐の希望者が大きく伸びていることに気づかれた方もいらっしゃるかもしれません。
神奈川県の公立は、横浜翠嵐をはじめ10校が2007年に「学力向上進学重点校」に指定され、その後8校が追加。さらに2013年には横浜翠嵐と湘南は「アドバンス校」という指定校のなかでも特に重点的に進路指導が行われる学校となりました。
この指定を受けて翌年2014年の人気は上昇、その結果が2017年の東大合格実績に反映されています。
つまり、高校の合格実績の飛躍は、4年前に遡ることで説明できるわけです。
2021年の4年後、2025年に横浜翠嵐の東大合格者激増?
さて、2021年の東大合格者数でひときわ人気を集めた横浜翠嵐。
学校側も「進学校」として、東大など難関校への合格実績強化を明確に意識して進路指導を行っています。
まずは2022年の横浜翠嵐高校の入試は、さらに人気が集まり難化が予想されます。
そして、2025年の大学入試において再び東大合格者数で注目を集めることになるでしょう。
中学受験では「7年後現象」?
ここまでは、高校入試と大学入試の関係についてお話をしましたが、中高一貫の中学受験となると、結果が出るまでにはさらに長い年月を要することになります。
2021年の大学入試の結果を受けて、2022年に人気を集めた学校の生徒が大学受験を迎えるのは2028年。かなり遠い話です。
全国的に注目度を高めた西大和学園
2021年の東大合格者数で注目を集めたのは、聖光学院や奈良の西大和学園です。
このうち西大和学園は、サピックス関西などの合格者数一覧では長年目立っていた存在でしたが、東大合格者が6位となったことで俄然注目を集めました。
ただ、西大和学園は高校入試での募集もありますので、7年後というよりは4年後に、さらに高い合格実績が目に見えてくるかもしれません。
東大合格 前年比17人増の聖光学院
このほかの上位ランキングの中で目立っているのが聖光学院でしょう。
かつては2007年に東大合格者数で栄光学園との逆転を果たし、その7年後の2014年には初めて70人台にのせましたした。
そしてその7年後の2021年も、東大合格者数において全国5位と、2019年の4位に次ぐ順位をつけました。
つまり、よく分析すると、聖光学院の合格実績は「7年現象」にしたがって伸びているのです。
とはいえ、中高一貫校の場合は、大学入試までの期間は、高校入試からの3年間と比べて倍となり、学力の変動幅も大きいため、よほど大きな人気の変化でないと、大学入試に「7年後現象」として顕著には現れにくいようです。
また、2021年はコロナ禍の影響等もあり、東京などからの受験者が減り倍率が下がりましたが、倍率が下がった学校は翌年は上がる傾向にある「隔年現象」が見られるため、この「隔年現象」の影響で、2022年の聖光学院はふたたび人気が上がるでしょう。
むしろ、中学受験界においては、「隔年現象」の影響のほうが、大学入試に及ぼす影響は現れやすくなっています。
4年後、7年後の「東大合格者」になるかどうかはあなた次第
ここまで、「4年後現象」「7年後現象」「隔年現象」といったワードをあげてきましたが、進学校の人気は実際に東大合格者数などを反映する傾向にあります。
ただ、東大合格実績が高まった学校に進めば、あなた(お子様)が東大に行けるわけでは当然ありません。
あくまで人気が高まった結果、学校全体の学力のレベルが上がり、東大合格実績に結びつくということです。
もちろん、進学先の志望理由に大学進学があるならば、より学力レベルの高い学校を選ぶというのは1つの選択肢でしょう。
学校側が「進学校」を自称しているならば、それをアピールしてさらに実績向上に力を入れるでしょうし、受験勉強という意味では、同級生から強い刺激を受けることもできるでしょう。
一方で、中学受験においてはあまり東大合格実績の変化だけに気を取られるのは得策ではありません。
たしかいに、記事でご紹介した横浜翠嵐高校は、明確に東大を意識した進路指導を行っていますが、大学受験を3年後に控えた高校生活の場を東大合格実績で選ぶのと、その倍の6年間、思春期、そして10代の半分以上という期間を過ごす学校を選ぶのでは、基準は全く異なるはずです。
受験界が、大学実績による影響を受けやすい以上、中学受験を「成功」させるために、最新動向に十分な注意を払う必要がありますが、学校選択の基準は校風や独自の教育カリキュラム、さらには通学環境などさまざまな条件をもって決めるものです。
進学実績が上がっている学校は、教員の熱量も高まり、充実した学習環境を得られるメリットもありますが、決して東大合格者数・率や医学部合格者数・率などの数字だけで子供にあった学校が決まるわけではないのです。
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