東大合格者40年連続1位の開成高校。中学受験における男女御三家で唯一高校募集を行っています。
中学受験では最難関校の1つですが、近年、高校受験では都立日比谷高校など、公立高校の存在が目立ってきているのが現状です。
一方で、高校募集を停止する中高一貫校が増える中、数少ない私立難関校になっています。
開成高校はトップ校ではない?
増加する開成高校の「合格者」
近年、開成高校は、入学定員に対して多くの合格者を出す傾向が続いています。
その傾向が顕著になりだしたのは、2010年代なかばから。
開成高校(定員100) | 受験数 | 合格者数 | 実質倍率 |
2003年 | 563 | 169 | 3.3 |
2004年 | 608 | 162 | 3.8 |
2005年 | 604 | 172 | 3.5 |
2006年 | 609 | 163 | 3.7 |
2007年 | 645 | 169 | 3.8 |
2008年 | 622 | 170 | 3.7 |
2009年 | 615 | 171 | 3.6 |
2010年 | 596 | 172 | 3.5 |
2011年 | 642 | 172 | 3.7 |
2012年 | 622 | 174 | 3.6 |
2013年 | 647 | 166 | 3.9 |
2014年 | 605 | 185 | 3.3 |
2015年 | 644 | 200 | 3.2 |
2016年 | 632 | 194 | 3.3 |
2017年 | 519 | 181 | 2.9 |
2018年 | 523 | 174 | 3 |
2019年 | 519 | 188 | 2.8 |
2020年 | 513 | 185 | 2.8 |
2021年 | 484 | 185 | 2.6 |
以前は170人前後だった合格者数が、2016年の200人をはじめ180人台後半で推移することが多くなっています。
高校受験で難関校対策に力を入れる早稲田アカデミーは以前から公立対策も強化していましたが、一方で私立志向の強かったサピックス中学部も2016年には情報誌「SQUARE」の特別増刊号・都立高校スペシャルを発行するなど、2010年代後半からはいよいよ公立対策にも力を入れるようになってきました。
偏差値表には表れない「高校人気ランキング」
サピックス中学部の偏差値表を見る限りは、開成は、日比谷高校などを上回る最難関校です。
しかし、日比谷高校を筆頭に都立人気が高まる中、男子受験生の間では、第1志望筑駒、第2志望日比谷、第3志望開成というケースも珍しくなくなっているのです。
偏差値表に表れない志望順位の序列が存在しているわけです。
ちなみに、開成の偏差値は64、日比谷の偏差値は57と大きな差がありますが、あくまで塾のテストを基準に算出された偏差値で、選考方法が私立と公立では全く異なるので、あまりあてになりません。
さらに、サピックスの場合、日比谷高校の合格者は24人と決して多いわけではありません。偏差値そのものの精度という意味でもあまり偏差値を過信しないほうがよいと思います。
開成中学より簡単な開成高校の入試問題
人気度をみてもわかるとおり、中学受験と高校受験、どちらが開成に入るのが難しいかというと、断然開成中学です。
開成高校の場合、入試問題も決して奇を狙ったものではありません。
特に数学はそれなりの難しさを誇り、英語も相対的に私立の中では難しい部類には入りますが、こと理社に関しては、中学校の学習プラスαの基本的なレベルです。
社会に関しては、むしろ開成中学の入試問題のほうが難しいくらいで、サピックスが発行する「コアプラス社会」の学習で6割ほどは取れるレベルです。ちなみに開成中学ですと、コアプラスで基本だけを学習しても半分はとれません。
実際、開成高校の受験者には、中学受験経験のリベンジ組も多くいます。
「旧高」と「新高」、東大に合格するのは?
旧高と新高とは?
では、開成中学受験組と開成高校受験組、最終的に東大に合格するのはどちらなのでしょうか?
開成では、中学からの内部進学組を「旧高」、高校受験組を「新高」と読んでいます。
旧高生は、高校入学時点で、高校範囲の学習を進めているため、クラスは、高校1年時点では、旧高と新高は分けられ、旧高が6クラス、新高が2クラスとなっています。
ちなみに、中学受験における、いわゆる「男女御三家」で、高校募集を行うのは開成のみ。高校募集を行う意義について、2020年まで校長を務めた柳沢幸雄氏は、以前、次のように話していました。
はっきりしているのは、高校入試はやめないということです。教育で最も重要と考えるのは多様性です。中学と高校で入学した生徒が刺激しあうことは、両者にとって非常にプラスに働く。1学年400人のうち100人を高校から採るのも、1集団に25%以上同じグループがいれば少数派として埋没しないからです。
(朝日新聞 2017年2月25日朝刊より)
なお、2020年には、柳沢氏の後任として野水勉校長が就任しました。
現時点での開成の考えは明らかにはされていませんが、少なくとも前校長は、「多様性」を理由に挙げて、「高校入試はやめない」と明言しているのです。
上位100人の半分、東大合格者は25%が新高生
開成高校では、高校1年から実力テスト、通称「実テ」が行われますが、よく言われるのが、例年、「実テ」の上位100人「百傑」の半数は新高生が占めるということです。
割合的には、さきほどの柳沢前校長の発言にあるとおり、新高生は25%にすぎないので、かなり高い割合です。
そして、東大合格者数について、柳沢前校長は、次のように明かしています。
Q 高校からの入学者は進学実績が低いように言われがちですが。
全くそんなことはない。毎年の東大合格者の25%プラスマイナス2%は高校入学者。高1の1年間は高校入学組だけでクラスを作り、高2からは中学入学組と交じって刺激しあう。
なお、発言からは、現役生のみの数字か、浪人生を含めた数字かは明らかではありません。
しかし、「東大合格者」に関しては、中学受験組と高校受験組で大差はないということです。
柳沢前校長も、たびたび「刺激しあう」という言葉を使っていますが、高校入学時点では、高校受験組は高い学力を持ち、6年間というゆとりある学校生活を送っている中学受験組に刺激を与えることが期待されています。
難関校の高校募集は停止が相次ぐ
巣鴨高校や千葉で広がる5科目入試化
同じく「刺激」という言葉を使われているのが、巣鴨の堀内校長です。
巣鴨高校は、2021年度入試から5科目入試を導入しました。開成や国立・公立など一部の学校を除いて3教科受験が主流の高校受験においては極めてレアなケースです。
朝日新聞では、次のように記されています。
中学入試では算数選抜を設ける一方で、高校入試では教科数を増やす。一見、矛盾した動きに見えるが、堀内不二夫校長は「算数が得意な子は、論理的に物事をとらえることができ、ほかの教科も総じて成績がいいことが多い」とした上で、「全ての子どもが中学受験ができるわけではないため、高校からの入学で間口を広げた。公立高入学に向けて勉強してきた受験生も選択肢の一つに考えてもらえたら」と狙いを語る。(中略)近年、中高一貫校が高校からの募集を停止する動きが広がっている。その中で、高校から入学できる学校は受験生にとって貴重だ。受け入れる学校側にもメリットはあり、巣鴨の堀内校長は「高校からの入学者がいることで新しい風が入り、お互いにいい刺激になっている」と話す。
こうした5科目化の動きは都内ではあまり見られませんが、千葉では渋谷教育学園幕張の5科目一本化、市川高校の5科目化など、複数の動きが見られています。
相次ぐ高校募集停止
中高一貫校の高校の募集停止は相次いでいます。
男子校は海城や本郷、女子は豊島岡など、募集停止は相次いでいます。
特に女子は、豊島岡女子の募集停止の影響が大きく、特に難関校を受験するレベルの生徒の併願パターンが著しく狭くなっています。
短絡的に入学試験の受験料収入のことを考えれば、高校受験を含めて多くの受験生を集めるほうが経営面では良いのですが、豊島岡では現役東大合格者に高校入学者はほとんどいないとも言われており、開成のような一部の学校を除いて、3年間という短い期間で大学受験対策をしなければならない高校募集は、メリットを感じない学校が多くなっているのが実態です。
実際、武蔵や神奈川県の浅野などが高校募集を停止するなど、1990年代には、中学入試一本化の波がありました。それが、このところ、ふたたび、近年起こっている形です。
開成高校合格者は、中学受験リベンジ組や、帰国子女など
高校募集の停止が相次ぐ中、開成高校は、高校募集のある私立難関校として、貴重な存在になっています。
さきに述べたとおり、高校1年の段階では、内部進学組とは別クラスであり、また開成名物の「運動会」を通じて旧高生との垣根が取り払われ、柳沢前校長がおっしゃるように25%という比率からしても、決してマイナーな存在ではありません。
そして、開成高校の合格者は、帰国子女などで中学受験に挑戦しなかった中学生のほか、中学受験からのリベンジ組も多くいます。そのリベンジ組の多くは、中学受験の際には、開成をはじめとするトップレベルの学校には手が届かない成績だった子たちです。中学受験の際よりも1段階も2段階も上の開成高校に挑戦し合格するケースは枚挙に暇がありません。
開成という難関校のきっぷを手に入れられるか、そしてその後大学受験で希望をかなえられるかどうかは、結局そのときどきの努力次第、そして東京という学校も塾も選択肢が豊富な地のメリットは、切磋琢磨できる環境に身を置き、若い時分からネットワークを構築できる点で、公立高校の人気が高まっている今日にあっても、開成高校の高校募集が続く限り、開成は一定の存在感を示す学校であり続けそうです。
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