東大ドラマ「ドラゴン桜2」ドラマの世界とはいえ、元サピックス講師として、「この子たちは東大には合格しない」と感じた決定的瞬間とは。中学受験にも共通して必要な必要な能力は何なのでしょうか。
ドラゴン桜の生徒たちは中学受験に成功するのか?
「東大監修」のもと具体的な受験テクニックを披露
現在放送中の「ドラゴン桜」は、西岡壱誠さんが「東大監修」として参加しています。偏差値35から、オリジナルの勉強法で二浪の末、東大に合格した経歴の持ち主で、『東大読書』シリーズがベストセラーになっています。
「ドラゴン桜」の中では、語源から単語を覚える暗記法など、西岡さんの著書で紹介されている学習法も盛り込まれた実践的な「東大対策」ドラマです。
そして、ドラマの第7回では、お笑いタレントのゆりやんレトリィバァさん演じる「由利杏奈(ゆり・あんな)」先生が、英語のリスニング学習法として「シャドーイング」を指導するなど、なかなか本格的です。ただ、その「ぼそぼそシャドーイング」の具体的な学習法がドラマ上では紹介されていないのが残念なところなのですが…。
大切なのは「言いたいこと」を推測する力
実践的なところもある一方、そしてドラマにケチを付けてもというところでもあるのですが、「この子たちは東大には合格できない!」さらには中学受験をしてもうまく行かないと感じる場面がありました。
それが、第7話のテーマの中心、東大模試をめぐる桜木の発言に対する生徒の反応です。
「この模試で合格見込みがないと判断されたものは、東大専科をやめてもらう」
桜木のこの発言に対して、生徒たちは、E判定をとるわけにはいかないと狼狽します。
のちに桜木は「合格見込みがないと判断した場合にやめてもらうと言っただけで、E判定でやめさせる」とは一言も言っていないと説明し、生徒たちは安堵します。
しかし、このように、「言葉を自己の都合がいいように、もしくは悪いように勝手に解釈する」子はもっとも合格しにくい子です。ある意味、国語の基礎とも言える力です。
入試、特に難関校受験で必要なのは、「出題者の意図を探る力」です。
その問題で、出題者はどういった能力を問おうとしているのか、どういった解答が求められるのか。意図を推察して、求められる解答を答えられる子が上位にランクインします。
中学受験でも、幼い子は合格しない、おとなになりきれなかった子は合格しないといった表現をされることがあります。
幼い子と、成長した子、その違いは何かと言えば、「大人の考えを理解できるかどうか」です。
先生や親が求めていることは何なのか、理想の答えを推測し、それを示す能力を持った子は自然と成長します。男子最難関の筑駒で求められるのは、まさにその能力です。教科書レベルの知識しか問われないにもかかわらず非常に難しい問題の所以でもあります。
もちろん、大人の「顔色をうかがう」ことになってはいけませんが、読書感想文で評価されるポイントをおさえているような子は、国語の記述問題でも、入試において求められる答えを自然と答えられます。
なにか指導されたときに、言葉を鵜呑みにするのでなく、背景まで理解して実行する力は受験の土台となる能力です。
この点、「ドラゴン桜」の生徒たちは、言葉を鵜呑みにするどころか、勝手な解釈を加え、全く別の捉え方をしてしまいます。こういった状態では、国語の入試問題など解けるわけもなく、正直、受験テクニック以前の状態です。
大学受験に限らず、中学受験でも、子どもたちには、なにか指導されたとき、その指示にはどういう目的があった、なぜそのゆな指示がなされているのか。自ら、考え、実行する力を身に着けさせなければなりません。
小4時点で学力がわかる?
サピックス中学部にはリベンジ組も大勢
「学力は小4くらいでほぼ決まっており、その後の学歴も大きく乖離することはない」との主張をするTwitterアカウントがあり、スペースでも話題になっています。
小4の時点で、ある程度中学受験の方向性が見えることはありますが、高校・大学の学歴まで含めて、乖離することは往々にしてあります。
サピックス中学部で指導していたときは、中学受験のリベンジ組、そして高校受験で中学受験よりも高いレベルの学校に合格する生徒を何十人も見てきました。
伸びる子の典型例
中学受験の段階では、準備期間が足りずに間に合わなかった子、失敗を機に奮起した子など、さまざまです。
以前、別の記事でも記しましたが、中学受験では、とても四谷大塚の偏差値で60に届かない子が、高校受験では当然のように開成など最難関校を受験し合格していく例も数え上げると霧がありません。
また、男子の場合、早慶の附属高校は、中学や大学ほど難易度が高くないため、「何がなんでも早慶に進みたい」と、私立中学で「仮面通学」しながら高校受験対策を行い、早慶の附属高校に進むという例も毎年見受けられます。
さらに、帰国子女のほか、親御様のお仕事の関係で、中学生になって、もしくは小学校高学年で地方から首都圏に移り住み、中学受験はできなかったものの、高校受験で難関校に挑戦するという子も珍しくありません。特に私立受験の場合、公立受験より高度な学習が必要になりますが、そもそもそうした学習をしてこなかっただけで、基礎力、いうならば「地頭」をしっかり鍛えている子ならば、トレーニングさえすれば飛躍的に学力は向上します。ただ、これは中学受験と同様、準備には相応の期間が必要になるため、その準備は早いに越したことはありません。
そして、合格する子に共通しているのは「自分で学習する意欲・習慣が身についている子」です。中学受験は、「親の受験」とも言われるとおり、親の指導・サポートが非常に重要になりますが、高校受験以降は、親が勉強の中身に関与して成功する例は少なく、むしろ本人が親から自立して、主体的に学習するようにならなければ合格は厳しいのが現状です。その意味では、小学生までに最低限の基礎学力と学習習慣を身に着けておくことは非常に重要です。
伸び悩む子は?
一方、中学受験「沼」では、「深海魚」という言葉がたびたび聞かれます。
中学受験を描いた漫画「二月の勝者」にも出てくるテーマです。
時々、持ち偏差値より高い学校に進んだことで学年最下位になったり、はたまた学校の授業についていけない事で不登校になるといういう言説を聞きますが、入試でぎりぎり合格だったから入学後、学年で再改装になるということはありません。むしろ、「受験疲れ」で緊張の糸が切れてしまった子、中学受験は親の強い指導・監督のもとで突破できたものの、自律的に学習する習慣が身につかず、勉強しなくなるケースのほうがよほど多く見受けられます。
高校受験や大学受験で再起はいくらでもできるが…
決して、中学受験の時点の成績が、その後の人生や学歴を決めるものではありません。
中学受験はあくまで通過点であり、むしろ中学入学後のほうがよほど人生を左右する重要な時期に当たります。
とはいえ、受験するなら失敗しない、少しでも本人にとっていい学校に進みたいものです。
やはり重要なのは、小学校低学年から「勉強好き」になることです。この時期は早ければ早いに越したことはありません。
中学受験対策の早期化が進んでいるとはいえ、本格的な受験対策は小4から始まりますが、受験時点での人生12年のうち、所詮3年にすぎず、残りの4分の3の過ごし方のほうがよほど学習姿勢には大きく影響します。
現状、特に女子の場合、高校入試はトップレベルの生徒にとって狭き門であることは多くの方が認識され、「選択肢を広げるため」に中学受験に挑戦されます。ならば準備が早いにこしたことはありません。
結局のところ、小4時点での学力は小3までの生活や学習習慣の積み重ねにすぎません。
受験や学校教育界では、よく「進度より深度」という表現をされますが、実際に大切なのは双方で、早いうちから受験を意識するに越したことはないのです。
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