2022年の中学受験の社会を速報で分析。今回は開成に続き、桜蔭を見ていきます。桜蔭はとにかく算数と国語が勝負。社会や理科は難しくないぶん、いかに高得点を難なく得点できるかが鍵になります。
8割は得点したい桜蔭の社会 「捨て問」は無し。
いわずと知れた女子最難関の桜蔭中学校。桜蔭の各科目の試験時間と配点は次のようになっています。
時限 | 教科 | 試験時間 | 配点 |
第1時限 | 国語 | 50分 | 100点 |
第2時限 | 算数 | 50分 | 100点 |
第3時限 | 社会 | 30分 | 60点 |
第4時限 | 理科 | 30分 | 60点 |
多くの学校で科目間の配点に傾斜がありますが、桜蔭の場合も、算数・国語が100点満点なのに対して、理社は60 点満点と、算国の6割の配点しかありません。
そして、桜蔭の理科・社会は、例年それほど難易度が高くなく、桜蔭の受験生のレベルではほとんど差がついていないものと想定されます。
ある程度の基本的な学習で高得点を狙える反面、基礎をおろそかにして苦手科目にしてしまうと、一気に点数を取りこぼし、合格点に届かないことになってしまいます。
算数・国語で勝負をかけるためにも、理社で確実な得点力を身に着けておくことが非常に大事です。
ほとんどはコアプラスレベル、勝負は制限時間!
では、2022年の桜蔭の社会の入試問題を見ていきます。
著作権の関係で問題は掲載していませんが、四谷大塚の「中学入試過去問データベース」に掲載されています。
そのうえで、こちらをご参照ください。2022年の桜蔭の答案用紙です。
青は『コアプラス』の知識で解ける問題
緑は『コアプラス』の知識でないものの、白地図や年代問題など、すべての受験生が学ぶ知識を活用して解ける問題。
黄色は、塾で習った知識、またはその応用で解ける問題
赤は解けなくてもいい問題
ほとんどが『コアプラス』レベル、すなわち御三家の受験生でなくても身につけたい知識が問われているのがわかります。
一方で、問題は時間です。
社会の試験時間は30分。それに対して問題数は記述問題を含めて52問の問題をこなさなければなりません。
出題形式が違うので問題数自体を比較することに大きな意味はないのですが、男子最難関の筑駒の社会の問題が25問程度しかないの比べると、試験の臨み方は大きく変わってきます。
1問に割ける時間は平均34秒!
52問中2〜3行で答える記述問題は3問ありますので、その他の記号問題や単語で解答する問題は10秒程度で機械的に処理していかなくては時間が足りなくなります。
問題が多いというのは、1問あたりの配点が小さく、学力と得点のブレが小さくなるのはメリットであるのですが、小学生としては高度の事務処理能力がなければタイムオーバーに終わってしまいます。
解ける問題をまずは機械的に答えていき、わからない問題はひとまず飛ばす。そして、記述問題に臨んだ後に、もう一度飛ばした問題や不安な問題に取り掛かるという、戦略を身につけておく必要があるのです。
例えば、さきほど、基本ばかりと述べた歴史では、次のような問題が出題されました。
文中の下線部2に関する次のX〜Zの正誤の組合せとして正しいものを、下のあ〜かから1つ選び、記号で答えなさい。
X 前方後円墳は近畿地方を中心に全国に広がっており、大和朝廷が北海道から九州までの豪族や王を従えていたことがわかる。
Y 大和朝廷の中心人物は大王と呼ばれ、稲荷山古墳から出土した鉄拳にはヤマトタケルの名が刻まれている。
Z 渡来人が養蚕や織物、焼き物などの高度な技術を日本に伝えた。
Xは、「北海道」が誤りで、大和政権は九州から東北地方南部までを支配していたのは、コアプラスにも載っているような常識です。
そして、埼玉県の稲荷山古墳から鉄剣が見つかったことも同様に基本問題ではあるのですが、鉄剣に記されていたのは「ワカタケル」で「ヤマトタケル」ではありません。ヤマトタケルは『日本書紀』や『古事記』に登場する皇族の名ですが、基本的には中学受験で覚える必要はない知識です。落ち着いて解けば、鉄剣に記されているのが「ワカタケル」であることも桜蔭の受験生にとっては常識レベルですので全く難しい問題ではないのですが、この問題を30秒程度で解かなければいけないと考えたときに、瞬時に「ヤマトタケル」が間違っていることに気付けるかどうかといった能力が合否の分かれ目となります。
短時間に問題文を速読し、ひっかけを含めた間違いを瞬時に見つけ出す。ふだんからスピードを意識した勉強をしていないと、入試本番では対応できません。
そして、こうした事務処理能力の大前提にあるのは、正確・確実な知識、理解です。簡単な問題で悩む余裕がないからこそ、ふだんの勉強では、基本を徹底し、比喩的に言えば「目をつぶっても解ける」くらいの状態にもっていきたいものです。
時事問題対策本はやっぱりサピックスがおすすめ、自然災害伝承碑
ここまで繰り返し述べている通り、桜蔭の社会は例年、いわゆる「基本」をしっかり勉強していれば高得点が狙える出題です。
そして、社会でいう基本というのは『コアプラス』のような問題集に載っている知識だけでなく、歴史の年代を記憶した上での並び替え問題への対応、そして時事問題への対応も同様です。
2022年の桜蔭では、次の地図記号の区別を問う問題が出題されました。
(あ)が「記念碑」であることは、コアプラスにも載っていますので、多くの受験生は知っていると思います。
そして、(イ)の「自然災害伝承碑」の地図記号は2019年に制定されたものですが、これはサピックスの時事問題対策本『重大ニュース』に赤字で掲載され、さらに巻末の重要キーワードのカードにもなっているものです。
東日本大震災から10年がたち、「被災体験の伝承も課題」であることは、サピックスの『重大ニュース』では1/2ページを割いて解説していて、そのなかでこの地図記号について記されています。
「時事問題」というと、入試の前年のできごとを暗記するというイメージをお持ちの方もいらっしゃいますが、中学受験における時事問題は、それだけではなく、直近の社会の出来事や課題について考え、理解する能力が問われています。そういう力を培うために活用できるのがサピックスの『重大ニュース』です。他の大手塾から同様の参考書は毎年秋に出版されますが、特にサピックスの場合は、「小学5・6年制対象」としており、入試直前に知識を詰め込むためというよりは、世の中の出来事を学ぶための雑誌、ムックのような存在です。親御様で中学受験を経験された方なら、受験生当時、『朝日ジュニア年鑑』で、麻布や武蔵など特殊な入試の理科・社会対策をされた方もいらっしゃるかもしれません。『朝日ジュニア学習年鑑』は現在も刊行されていますが、それに代わるような存在のものです。
時事問題対策本は、秋に最新版が販売されるまでは前年のものが販売されていますので、受験生だけでなく、小5の方もぜひ購入し、「読み物」「雑誌」として読むようにしてください。入試直前に覚えられるような分量では断じてありません。
机に向かって、手を動かして基本を覚える、そうした作業もとても大事なのですが、桜蔭をはじめ、特に難関校で問われるのは、社会という科目への関心の高さで、それは一朝一夕に身につくものではありません。
1年間かければ誰でも桜蔭の社会には対応できる
こうした基礎的な知識を問う問題の一方、たしかに桜蔭の社会では、一部イレギュラーな出題もあります。
「昭和後期以降、日本では一般家庭の窓に、アルミサッシ枠の( )が普及して、蚊帳の仕様は減ってきました。………新型コロナウイルス感染症の拡大によって、日本の過程で一般的な( )が海外で注目されています。( )は明治時代に来日した外国人との習慣の違いの問題を解決するために日本人が考案したオーバーシューズがもとになったそうです。」
( )に入るのは、「網戸」「スリッパ」ですが、これは授業で習うものというよりは、文中から言葉の意味、目的を考え、一般常識の中で答えるべきものです。
「読解力」を利用してぜひ正解したいところですが、なかには短い試験時間で対応できなかった受験生もいるかもしれません。
テキストに掲載されている「受験知識」以外を幅広く学ぶのは、実生活の経験でもあり、御三家受験生レベルでも、さきほど紹介した『重大ニュース』に加え、小学生新聞も有用です。
特に日刊の朝日小学生新聞は、中学受験生もターゲットとしていることから中学受験での出題も意識した作りになっており、受験対策という意味では効果があります。
基本が大事なのは間違いないのですが、合格レベルとされる8割程度を得点するには、基本中の基本の問題だけでなく、応用問題への対応も不可欠です。そうした観点からは、桜蔭の受験生には、基本を漏らさず習得した上で、時事問題や社会的常識を長期的な視点で身につける、付け焼き刃でない勉強が求められます。
そして、冒頭にも述べたとおり、多くの難関校に共通しますが、桜蔭の受験生にとって勝負を分ける存在は、算数と国語です。サピックスは小6になると算数の負荷が高まってきますし、長文記述だらけの国語の対策も強化していくことになります。その意味で、理社は、できるだけ早く小4ないし小5の時点で、進出単元を学んだ際、いかに早く習得するか。入試直前に理社の負担をいかに減らしていけるかという視点が大事になります。
暗記科目だから、追い込みが効くからという考えは、こと難関校対策には通用しません。
できるだけ早い時期からの入試対策を行ってください。
コメント
桜蔭を受験したいと思っているので参考になりました。
特に、コアプラスがどれぐらいの割合で出ているのかが非常に有用でした。
来年度もこうした記事を書いていただきたいです。