入試直前期、過去問とともに多くの受験生が力を入れるのが「時事問題」。
サピックス、四谷大塚、日能研や栄光ゼミナールという大手中学受験や学研から毎年時事問題対策本が出版されます。
発売開始直後に購入はしたものの、その分量にびっくりという方もいらっしゃるかもしれません。
必ず「得点源」にできる時事問題。何を買ってどう勉強すればよいのか説明します。
時事問題が楽しい子はやりすぎ注意!!
社会が得意な子ほど、時事問題は喜んで学習します。
小6で学んだ憲法、国会、経済などに関心を持ったような子にとって、時事問題は、さらに社会への好奇心を掻き立ててくれる存在です。
書店に行くと、サピックス、四谷大塚、日能研、栄光ゼミナール、さらに学研と、5種類の時事問題の参考書が平積みになって、時事問題の大切さを主張します。
「時事問題は、やれば必ず結果に結びつく分野」。
先生にそう言われ、入試直前期のやる気向上と相まって時事問題で一気に形勢逆転をとばかりに勉強したがる子も毎年必ずいます。
たしかに、現在の内閣総理大臣の名前を漢字で答えさせるなど、時事問題の定番というものは存在します。
2022年入試なら2021年10月に誕生した岸田文雄内閣総理大臣の名前を書けるようにするのはマストです。
さらに、ときの衆議院選挙があった翌年には、選挙や国会に関する問題が出題されやすい、オリンピックの翌年はこれまた然り、といった傾向もあり、出題傾向を踏まえたその年ならではの対策が必要なのも事実です。
しかし……
注意したいのは、
時事問題はあくまで社会(一部、理科)という1科目の一部にすぎない
ということです。
ただでさえ、入試直前期は過去問演習など、やるべきことは山ほどある時期。
そして、入試直前期に重要なのは、基本的な知識や理解の強化です。
時事問題のために算数の計算や国語の漢字が疎かになっては元も子もありません。
時事問題は、要点を絞って、できるだけ短時間に、狙われやすい知識を学習するのが正しい勉強法です。
12月になると、いよいよ入試直前本格的に時事問題の強化に取り組むことになります。
どの参考書を使えば、もっとも効率的に学習できるのか、ここではサピックス・四谷大塚・日能研3社の時事問題参考書を比較していきます。
SAPIX、四谷大塚、日能研 時事問題集の主な特徴
3社の違いは?
ここでは、サピックス、四谷大塚、日能研という大手3社の時事問題対策本について見ていきたいと思います。
サピックス | 四谷大塚 | 日能研 | |
サイズ | A4 | A4 | B5 |
ページ数 | 175 | 103 | 199 |
価格 | 本体1,600円+税 | 本体1,700円+税 | 本体1,500円+税 |
主な構成 | 時事解説 予想問題 時事ニュースマップ・カレンダー 資料のページ 用語解説 一問一答カード | 時事問題マップ 時事解説+基本問題・発展問題 予想問題 学習事項確認カード | 時事解説 ニュース年表 予想問題 資料集 用語集 |
SAPIX 〜読み物として充実、短時間での学習には優先順位を!
3社のなかでもっとも内容盛りだくさんなのがSAPIXです。
ふだんから膨大な教材で、入試に必要な全知識を網羅する発想のSAPIX。時事問題についても同様の発想でつくられています。
A4175ページの冊子はずっしりしていて、本編の章立ても25 とたっぷり、さらに1ページあたりの文字数もとても多く、正直発売から入試までの3か月、過去問演習などで忙しい時期に1冊まるまる吸収できる分量ではありません。
並びも、「日本社会」「環境」「国際社会」というまとまりで作られており、分野別の学習ができる反面、優先順位をつけての学習には工夫が必要です。
そもそもこのサピックスの重大ニュース、対象は「小学5・6年生」です。
時事問題は、例年出題される学校に関しては、得点源とすべき分野ですので、たしかに入試直前期に集中的に学習する対象ではあります。
しかし、そもそも時事問題は、中学受験生が日常のニュースに関心を持って生活しているかどうか、大人の一歩手前の立場で世の中の動きを理解できているかどうかを測るためのものです。学校側からしたら、入試直前期の詰め込み勉強を期待しているわけではありません。
その意味で、“本来”の時事問題対策は、小5から始めるべきです。とはいっても、テキストを使った「勉強」が求められているわけではありません。
こうした時事問題の参考書を、いわば雑誌(「Mook(モック)」なんて言い方もありますね)として、読み物として活用すべきです。
そういう使い方をする上においてはサピックス版は非常に優れています。
5年生が1年間かけて1冊を吸収できれば、時事問題といわれるもの、さらに社会や理科の変化球的、テキストの勉強だけでは解けないと言われるような問題への対応も可能になります。
なお、小6の方は、冒頭に「私立中学校の先生に聞きました 小学生に知ってほしいニュースベスト20」というランキングが掲載されていますので、その順番に読み進めることをおすすめします。
繰り返しになりますが、大事なのは優先順位。すべてを覚えようとする必要は、ほんの一握りの受験生を除いて必要ありません。
四谷大塚 〜重要事項を凝縮、問題演習で知識を確認
サピックスと同じA4サイズですが、ページ数はサピックス版の約6割、1ページあたりの文字数も少なくなっています。
特徴は、解説が見開きの2ページ+基本問題1ページ、発展問題1ページという、予習シリーズに近い構成になっていることです。
さらに解説ページは左ページが扉の写真とQAコーナー、そのニュースがなぜ注目なのか、要点が説明されています。そして右側のページ「ニュースの視点」で、覚えておきたい主要な知識や関連する知識がコンパクトに解説されています。
さらに、「ここが出る!?」コーナーでは、入試で問われる可能性が高い用語が掲載されています。たとえば「コロナ禍での総選挙」の章では、「解散・特別国会・デジタル庁国民投票法・少年法・RCEP」などが掲載されています。
こうしたキーワードを中心に暗記し、基本問題と発展問題で知識の定着を測っていけば、多くの学校の時事問題は対応可能です。
一問一答問題も含めて「キーワード」を意識した作りになっていますので、要点をしぼって学習しやすい工夫が感じられます。
サピックスが、時事問題をくまなく学習したい人向け、難関校受験生の中でもトップ層、とにかく隙間を埋めていく学習をしたい人向けだとしたら、四谷大塚版はそれ以外、多くの受験生にとってのスタンダード的存在です。
日能研 〜 コンパクトに必要な知識は網羅
B5サイズでコンパクト、時事問題資料集が豊富なのが特徴です。
逆に本編の解説の分量は、本の前半、全体の半分程度で重要なニュースから順番に掲載されています。取り上げられているニュースは25ですが、余力がなければ前半だけなどといった使い方が可能です。
演習量が豊富ではありますが、四谷大塚版との違いとしては、実戦形式の問題が中心で、一問一答形式の問題は見られないことです。
日能研の市販教材は、メモリーチェックといい、一問一答という形式をあまり好まない傾向があります。
実戦形式の問題は、演習量を重ねる中で、狙われやすいところ、ポイントとなるところを、体感しやすく、その後の学習に活かしやすいというメリットはあるのですが、一方で覚えるべき知識を明確にして繰り返し記憶の作業を繰り返すという学習には向いていません。
時間がない中では1問1答形式のほうが効率的な面もあり、効率的な学習には工夫が必要な教材です。
とはいえ、四谷大塚版同様、多くの受験生にとって必要な情報は網羅されています。中学受験対策には十分な1冊です。
1冊選ぶならどれ? 要点集中か網羅的学習か?
超重要知識を効率的に学びたいなら四谷大塚一度
すでに述べたように、それぞれの参考書は形式に大きな違いがあるため、まずは形式面でどの社のものが使いやすいかで判断するとよいでしょう。
入試直前期ということもあり、問題形式で効果的に学びたいなら四谷大塚がベストです。
ワクチン接種や東京オリンピック、総選挙など11の主要ニュースについて、各10問程度の一問一答形式の「基本問題」、それに文章題形式の発展問題が1ページ分ついています。
入試に必要な時事問題関係の知識は、基本問題でほぼ網羅されています。
さらに、これまで述べたとおり、1問1答形式のため、知識の確認や反復学習が容易だというメリットもあります。
例えば、まず「基本問題」を解いて、そのあと答え合わせと解説の読み込みというセットで、各ニュースの基本を回したうえで、余力があれば「発展問題」に挑戦するという使い方も可能です。
基本問題についても、すべてが新しいニュースに関するものではなく、選挙の仕組みなど、すでに公民などで学んだ基本的な内容も含まれています。
必ずしも解説を読んで問題を解き進めるという順序にこだわらず、問題→解説という逆の順序を踏むことで、入試までの短期間で効率的に時事問題対策を行うことが可能です。
細かい知識の補填が目的ならサピックス、小5生も!
さきほども述べましたが、サピックス版は、知識の分量は軍を抜いていあすが、必ずしもすべての知識が全受験生に必要なわけではありません。
逆にサピックスの「一問一答カード」は、まったく不要な用語まで正確に記憶する時間に費やす時間はもったいないので基本放置でかまいません。
「新型インフルエンザ等対策特別措置法」など、日常生活、新聞やテレビでも使われていない法律の正式名称を正確に記憶する時間は、入試直前期には正直有意義とは言えません。
正直、自習で使いこなそうと思っても、無駄な知識を覚えることにエネルギーを使うことにもなりかねず、塾での指示に従って使う場合を除いてはあまりおすすめできるものではありません。
一方、先に述べたとおり、この参考書は小5も対象にしています。小5生にとっては、広くニュースに関心を持つことが第一の目的ですので、ずっしりいろんな知識が盛り込まれたサピックス版は読み物として非常に優れています。
小5の段階では小学生新聞などでとにかくニュースに慣れることが大事で、個人的には朝日小学生新聞が一番のおすすめです。
小学生新聞とあわせて子どもが手に取りやすいところに雑誌のように置いていつでも読めるようにしておくなどして、早い段階から「時事問題、ニュースが中学受験では出る」ことを意識させておくことが大事だと思います。遅くとも小5までには小学生新聞も購読することもあわせておすすめします。
「時事問題」は「最新ニュース」だけではない
そもそも時事問題として出題される問題は、今年・去年に起きた出来事そのものの知識だけが問われるわけでありません。
たとえば、2022年の入試では多くの学校で出題が予想される総選挙関係の時事問題。
2021年10月31日に総選挙が行われましたが、多くの学校で問われるのは、2021年の総選挙で自民党が何議席とったというようなものではなく、解散総選挙のあとに開かれる国会が特別国会であることなど国会の種類、特別国会で内閣総理大臣の指名が行われること、天皇が内閣総理大臣を人詠することなど、公民分野で習った憲法に関する基礎知識です。
もっとも、内閣総理大臣の名前は中学入試では頻出なので、「岸田文雄」を書けるようにしておくことは大事です。もちろん名前を書ければ良いというわけではなく、岸田首相の顔を判別できるのも常識レベルです(しかし、解けない子もいます)。
簡単に基準を示すと、四谷大塚の一問一答問題=「基本問題」に出題されているレベルをパーフェクトに解けるようにしておけば問題ありません。
ちなみに、サピックス版などを使用される方も、四谷大塚の基本問題だけ補助的に使用するというのは一つの使い方です。
繰り返しになりますが、時事問題は、確実に得点源にできる分野でありますが、学校によっては時事問題の出題はない学校もあります。麻布中学のように、社会の動きへの高い感度のアンテナが求められる学校でも、時事問題=最新ニュースが問われるわけではない学校もあります。
その意味でも、入試直前期の学習の軸は過去問であり、理社に関しては基本的知識の積み上げ、時事問題に限らずコアプラスなどでの学習が大事になります。
さらに、冒頭でも申し上げましたが、子どもがニュースに関心を持つ、時事問題を頑張ろうという気持ちは嬉しいのですが、それが、地道な勉強からの「逃げ」になってはいけません。
さらに、ツイッターなどでは「これは出題される」「あれも出題されるかも」と塾講師や家庭教師などが思い思いにつぶやいたりもしますが、最後に大事なのは「基本」です(正直、ツイッターの時事問題に関するつぶやきは、「私は講師としてこれだけ感度が高く優秀だ」というアピール程度で見ておいたほうがいいです)。
一部の難関校を除いて、「特異な問題」への対応に力を割く必要はそれほどありませんし、コアプラスがおろそかな受験生が時事問題を頑張るといってもそれは甘えでしかありません。
くれぐれもやりすぎず、一方で誰もが知っているニュースに関する問題は解けるように。
時事問題といっても特殊に考えずに、ラストスパートを駆け抜けていただければと思います。
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