サピックスといえば、開成や桜蔭をはじめ、合格実績では他の追随を許さない存在となっている関東の中学受験会の雄です。
一方、関西圏での塾の勢力図は全く異なります。日能研は存在しますが、灘中学をはじめとすると難関校の合格実績を競っているのは浜学園・希学園・馬渕教室といった大阪・兵庫地盤の塾です。
ただ、2000年代以降、希学園が関東に進出したのを皮切りに、サピックスも関西に進出、関東・関西で両者入り乱れて生徒獲得競争を繰り広げています。
どちらも、それぞれの地盤では塾選びで必ず候補に上がる存在ですが、敵陣での健闘ぶりはどうなっているのでしょうか?通塾にあたって注意したい点もあわせて説明します。
2021年合格実績で希学園の実力は一目瞭然
希学園とはいったいどんな塾なのでしょうか?まずは合格実績を見てみましょう。
サピックスと互角の合格実績、希学園首都圏
在籍者数 | 176 |
開成 | 9 |
麻布 | 9 |
武蔵 | 1 |
駒場東邦 | 9 |
栄光学園 | 3 |
聖光学院 | 21 |
灘 | 3 |
筑波大学附属駒場 | 4 |
筑波大学附属 | |
桜蔭 | 5 |
女子学院 | 1 |
雙葉 | |
フェリス女学院 | 1 |
豊島岡女子学園 | 9 |
慶應義塾(普通部・中等部・湘南藤沢) | 11 |
早稲田(早稲田・早大学院・早実) | 4 |
渋谷教育学園渋谷 | 8 |
渋谷教育学園幕張 | 13 |
男女御三家合計 | 25 |
希学園は「株式会社希学園首都圏」という、関西とは別会社を設立し、合格実績は、目黒・二子玉川・みなと芝浦・横浜の4教室のみの実績を掲載しています。
在籍者数の合計は4教室で176人。1教室あたりの44人という少数精鋭です。
開成や麻布、桜蔭など、男女御三家に合格者を輩出していることがわかります。
では、在籍者に占める合格者の割合を、サピックスと比較して見てみましょう。
SAPIX | (対在籍者数%) | 希学園首都圏 | (対在籍者数%) | |
在籍者数 | 6179 | 176 | ||
開成 | 268 | 4.34 | 9 | 5.11 |
麻布 | 207 | 3.35 | 9 | 5.11 |
武蔵 | 61 | 0.99 | 1 | 0.57 |
駒場東邦 | 170 | 2.75 | 9 | 5.11 |
栄光学園 | 105 | 1.70 | 3 | 1.70 |
聖光学院 | 229 | 3.71 | 21 | 11.93 |
灘 | 26 | 0.42 | 3 | 1.70 |
筑波大学附属駒場 | 86 | 1.39 | 4 | 2.27 |
筑波大学附属 | 90 | 1.46 | ||
桜蔭 | 160 | 2.59 | 5 | 2.84 |
女子学院 | 144 | 2.33 | 1 | 0.57 |
雙葉 | 54 | 0.87 | ||
フェリス女学院 | 80 | 1.29 | 1 | 0.57 |
豊島岡女子学園 | 291 | 4.71 | 9 | 5.11 |
慶應義塾(普通部・中等部・湘南藤沢) | 310 | 5.02 | 11 | 6.25 |
早稲田(早稲田・早大学院・早実) | 338 | 5.47 | 4 | 2.27 |
渋谷教育学園渋谷 | 240 | 3.88 | 8 | 4.55 |
渋谷教育学園幕張 | 380 | 6.15 | 13 | 7.39 |
男女御三家合計 | 894 | 14.47 | 25 | 14.20 |
開成を見てみると、サピックスが4.34%なのに対して、希学園は5.11%。合格率では希学園がサピックスを上回っています。
このほか、麻布や筑駒の合格率でも希学園に軍配が上がります。
一方、女子はサピックスが優勢ですね。
桜蔭は、サピックスが2.59%、希学園が2.84%とわずかに希学園が上回りますが、女子学園は圧倒的にサピックス、雙葉の希学園の合格者はゼロです。
男女御三家合計で見ると、サピックスが14.47%、希学園が14.20%と、ほぼ互角であることがわかります。
このあたりの数字の出方は、希学園の戦略に関係してきますので、のちほど詳しく解説します。
サピックス関西の実績は?
一方、サピックスは関西に大阪の上本町・千里中央、兵庫のの西宮北口・住吉の4校を構えています。
ただ、合格実績に関しては、関西単独の合格実績は発表していません。
関東と同様に、同塾の合格者数・合格率を比較していますが、サピックスは関東の生徒を含む合格実績となっています。
SAPIX | (対在籍者数%) | 希学園 | (対在籍者数%) | |
在籍者数 | 6179 | 524 | ||
灘 | 26 | 0.42 | 47 | 8.97 |
甲陽学院 | 13 | 0.21 | 35 | 6.68 |
東大寺学園 | 10 | 0.16 | 54 | 10.31 |
洛南高附属 | 3 | 0.05 | 59 | 11.26 |
西大和学園 | 51 | 0.83 | 93 | 17.75 |
洛星 | 3 | 0.05 | 20 | 3.82 |
六甲学院 | 6 | 0.10 | 27 | 5.15 |
神戸女学院 | 10 | 0.16 | 33 | 6.30 |
四天王寺 | 3 | 0.05 | 60 | 11.45 |
大阪星光学院 | 6 | 0.10 | 15 | 2.86 |
須磨学園 | 12 | 0.19 | 31 | 5.92 |
このうち、灘中学の塾別の合格実績は次のようになっていますよ。
合格者数 | |
浜学園 | 96 |
馬渕教室 | 71 |
希学園 関西 | 47 |
早稲田アカデミー | 36 |
日能研 | 30 |
SAPIX | 26 |
灘中の合格者、実は早稲アカのほうが、サピックスより多いんです。
2021年はコロナ禍で東京からの首都圏からの受験者は、前年の約6割に減少したものの、灘中は、毎年関東から「腕試し」で多くの受験があります。
そのため、純粋にサピックス関西の実績を測ることは、公表された資料からは難しいですが、関西ではサピックスのほかに日能研が進出して久しく、関東とは別カリキュラムで灘中対策に取り組んでいます。実数で見ても、256人の合格者に対して、30人の合格者を出しており、関東では存在感が薄くなってきたとはいえ、日能研は関西ではいまも健闘している存在なのです。
関東でも着実に実績、希学園とは??
では、希学園とはどういう塾なのでしょうか?
TAPから独立のサピックスに重なる、浜学園から独立
首都圏・関西での合格実績を見てもわかるとおり、少数精鋭の塾です。
1992年、浜学園の講師を中心に独立して設立されました。
背景には、浜学園の経営者との対立で、この点、1989年にサピックスがTAP進学教室から独立したのと似ていますね。
TAPは、その後栄光ゼミナールに吸収される形で消滅しましたが、浜学園はその後も関西圏でNo.1の地位を保ち続け、最近成長の著しい馬渕教室、日能研と激戦を繰り広げています。
馬渕教室は、首都圏で言う早稲田アカデミーのような位置づけのイメージです。
名物「激励集会」
そして、希学園の特徴は、はちまきを締めてシュプレヒコールをあげる「激励集会」に象徴される、体育会的、応援部的気風です。この点、早稲アカに重なるところがありますね。
また、希学園創設者の名物理事長、前田氏の講演や特別講義などが年数回設けられています。
オリジナル教材・カリキュラム
そして、カリキュラムは希学園オリジナルとなっています。
「スパイラル方式」をうたっているのは、サピックス同様で、小4で学習した単元を再度小5で深めて学習、6年でも再度発展的内容に高めていくというカリキュラムです。テキストは、希学園の講師が作成したオリジナルで、この点もサピックス同様です。
一方、特徴は、拘束時間の長さです。
6年生になると、週4日のベーシックコースの受講が必須で、さらに志望校別特訓も必須となります。
月謝は、ベーシックが税込み月74,250円、志望校別特訓が27,500円です。
さらには、「面倒見の良さ」を売りにしており、小4以上の学年では、講座終了後に自習時間が設定されています。
小4以上の学年では、講座終了後に自習時間を設定しています(一部講座を除く)。講師の管理下で、当日分の宿題にお取り組みいただきます。
その日の受講内容について、可能な限り早いタイミングで自力で問題に取り組み、理解の不足している部分を抽出することを目的としています。
正しい学習姿勢を身につけるためにも、非常に効果的です。もちろん、講師への質問が可能です。
(希学園首都圏のウェブサイトより)
このほか、筑駒・灘特訓(算数)や国語読解特訓などの選択制授業が用意されています。月謝の高さもさることながら、講座の選択においても、親の負担はそれなりにあります。
サピックスの月謝54,000円と比べても割高ですが、サピックスでも、2学期になるとサンデーサピックスなどでかなりの出費を要することになるので、その点注意は必要です。
2000年代に入り相次ぐ勢力拡大
関東が基盤の塾の関西進出、逆に関西からの関東進出、すでに述べたとおり、古くは神奈川発祥の日能研が関西進出を実現していますが、新興勢力の中で最初に仕掛けたのは関西の希学園、2000年代に入ってから動きが活発になりました。
希学園の関東進出を端に陣取り合戦勃発
2004年、希学園は、恵比寿に首都圏初の教室を設けます。
そして、2年後の2006年、横浜・青葉区のたまプラーザに2つ目の教室をオープンさせ、このあたりから、希学園の存在が首都圏でも知られるようになってきました。
古くは、ドラマ「金曜日の妻たちへ」の舞台となり、昭和後期から平成にかけて人口が急増した地域です。関東でも有数の受験熱心な地域として知られていて、サピックスや早稲田アカデミー、日能研が教室を構えます。
また、希学園がのちに移転した隣駅あざみ野駅も四谷大塚の校舎があります。
サピックスは、たまプラーザから渋谷方面に2駅の宮前平や、下り方面に5駅の青葉台にも教室を構え、神奈川県内の12校舎のうち3校舎は田園都市沿線沿いの校舎となっています。
それだけ受験熱心な地で、勢力の拡大を図ったのです。
希学園は、その後、教室の統廃合や移転などを繰り返し、現在は、臨海部の芝浦を含む4教室体制となっています。
サピックスの関西進出から10年
なお、サピックスの関西進出は、希学園より遅れた2011年のことでした。
最初の教室は兵庫の西宮北口駅、神戸と大阪の中間地点に位置し、関西の「塾銀座」とも称される激戦区です。
西宮北口、通称「西北」は、浜学園と馬渕教室の本部もあるし、希学園。日能研など大手塾は全部揃って、非常に教育熱心の方が多い地域ですね。
そうなんです。
西宮北口は、2007年、すでに中学部が進出した地で、小学部は、2010年の代ゼミグループ入りの翌年に進出を果たしました。
つまり、代ゼミの経営戦略の一環として、関西進出を行ったんです。
代ゼミとしては、東京以外の地域でも、小学生から取り込みを図っていったんですね。
続く浜学園の関東進出
なお、関西の塾の関東進出は、浜学園が、2013年に駿台予備学校と合弁で「駿台浜学園」を設立し、お茶の水教室を設立するなど、活発化しています。
希の首都圏進出 その背景
転出超過の大阪圏
2000年代以降、塾の敵地進出が活発化になった背景にあるのは、少子化の進行、特に大阪で著しい転出超過です。
日本の人口は2006年をピークに減少が続いていて、今後も歯止めがかからない状態です。
2020年以降、コロナ禍で人口動態に変化が生じていますが、2019年、転入者が転出者を上回ったのは東京都や神奈川・千葉など8都府県で、都市部の中でも、特に首都圏への一極集中が進んでいます。
東京圏は24 年連続の転入超過ですが、大阪圏は7年連続の転出超過となっていて、関西を地盤とする塾にとっては、今後、先細りは避けられない状況なのです。
こういう人口動態、入試の知識としても重要ですね!
ますます加熱する東京の中学受験熱
一方、首都圏ではコロナ禍にあっても、中学受験ブームは強まっています。
難関校での合格実績がNo.1のサピックスは、半数以上の校舎で、一部またはすべての学年の募集を停止するなど、「入塾すること自体が難しい」塾になっています。
サピックスに入りたくても入れない人が大勢いるなか、希学園など関西の塾にとって、東京は、市場を拡大する地として最適なんです。
有力な選択肢の希学園、教室閉鎖には要注意
すでに述べたように、希学園は、関西だけでなく男子御三家をはじめ、関東の難関校でも、少数精鋭でサピックスに匹敵する合格率を誇っており、有力な選択肢ではあります。
ただ気をつけたいのが、したたかな市場戦略です。
希学園が首都圏2つ目の教室としてオープンさせたたまプラーザ教室は、のちに隣駅のあざみ野に移転したあと、閉鎖されました。
同じ田園都市線沿線の二子玉川への移転という形ですが、多摩川を渡った先の東京・世田谷区であり、小学生にとって通塾は容易ではない距離です。
そのほか、荻窪やお茶の水も数年間での閉鎖となっています。
2004年の関東進出後、わずか15年余り、現在4教室しかない希学園は、3つも教室を閉鎖しているのです。
希学園は、ここ数年続いた都心志向に合わせて、都内の教育熱心な地を探り、ピンポイントで教室を開いている印象です。たまプラーザ周辺は、いまでも有数の受験熱心な地ですが、すでに塾激戦地でもあり、より新しい土地を求めて、湾岸部、芝浦に進出した形です。
一方、横浜教室は、早稲田アカデミーもそれほど強くない地で、聖光や栄光、フェリスなど、神奈川での実績を上げたい思惑が透けて見えます。
「異国の地」で、市場ニーズを探りながら、勝てない場所は捨てていく。PDCAサイクルを行っていく、企業としては非常に正しい戦略とも言えそうですが、通う側としては要注意です。
これまでの傾向を見ても、希学園の現存の教室は、いつまで続くか不明瞭です。
中学受験において、各大手はオリジナルのカリキュラム・テキストでノウハウを確立しており、特に高学年になってからの転塾は、難しくなっています。
一度通い始めたら、入試までずっとお付き合いする。それができるのが塾としては最低条件です。
選択肢の1つ希学園、家庭の事情に応じ、他の有名塾と比較検討を
塾の選択は、進学実績だけでなく、お子さんに合った雰囲気かどうかや、通いやすさ、志望校等、総合的に判断して決めたいものです。
前の記事で紹介したサピックス創設者によるグノーブル、早慶を中心に高い合格実績を誇り、「勢い」がある早稲田アカデミーなど、選択肢はたくさんあります。
一方で、「希学園」はちょうど創成期の卒業生のお子さんが受験を迎える時期に差し掛かっており、関西出身の方からすれば、気になる存在であり、今後さらに注目を集めて成長する可能性もあります。
基本的に塾というのは、ローカルマーケットであり、ここ数年の早稲田アカデミーの伸長に象徴されるように、数年で大きく勢力は変わっていきます。
特にこれから塾通いされる方が入試を迎える頃に最適な塾は、いまと異なるかも知れません。
絶対的に正しい情報はありませんので、ぜひご自身で足を運んで、もっとも気に入った塾を選ぶのが大切です。
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