2021年の開成中学の合格者数はサピックス小学部が269名。一方、開成高校は早稲アカが111名で全国No.1。サピックス中学部は20名にすぎません。東大合格者数は144名と全国1位の開成の合格者数は、大手進学塾が実績をアピールするポイントの1つになっています。
その開成をめぐる、中学と高校で全く異なる合格実績を通して、塾業界の現状を読み解きます。
開成中学No.1のサピックス 生徒数の増加とともに
2021年は2位にダブルスコアの実績
開成中学は、言わずとしれた男子御三家の1つ。関東の男子受験校の中では筑波大学附属駒場に次ぐ難関校です。
2021年の大手各塾の合格者数は、次のとおりです。
早稲田アカデミー … 127名
日能研 … 30名
2021年の開成中学の合格者数は398名ですので、サピックスが占有率68%を占めています。
業界3位からのスタート
そのサピックスの過去の開成合格者数の推移を、女子最難関の桜蔭とともに表したのが次のグラフです。
2010年代なかばからはほぼ横ばいとなっていますが、右肩上がりが続いてきました。
サピックスの創設は1989年。当時のTAP進学教室小学部代表だった霜山幸夫氏ら講師陣が経営陣と対立して設立した塾です。
設立から1年も立たず入試を迎えた第1期生の開成合格者数は46名でした。開成と桜蔭合わせて68名が合格、1期生の5人に1人が開成か桜蔭に合格しました。
今に至るサピックスの歴史の中で最も開成・桜蔭合格率が高かったのは1期生です。
とはいえ、1990年当時は開成の合格者数第1位は桐杏学園で90名、日能研も50名の合格者を出しており、サピックスはそれに次ぐ存在でした。
のちに説明する中学部が、定員100の開成高校に46名の合格者を出し、初年度から業界1位の実績を残したのとは状況が異なりますが、当時の日能研が麻布中に力を入れていたのに対し、サピックスは開成・桜蔭に注力します。
2000年代に校舎網を拡大し生徒数が増加
そのサピックスが開成中の合格者数を大きく伸ばした背景にあるのが、生徒数の増加です。
先の開成・桜蔭の合格者数にサピックスの在籍者数(卒業生)を加えたグラフがこちらです。
2000年代に入り、サピックスの在籍者数が大幅に増加しているのが明らかです。
それが2000年代に入り、教室を一気に拡大。例えば、東急田園都市線のたまプラーザ校の近隣には青葉台校とセンター南校(横浜市営地下鉄)、それに宮崎台校を2007年までに相次ぎ開設、中学受験熱の高い地域をサピックスの空白地帯を埋めて、通塾しやすい環境を整えていきました。
近年では定員による募集停止も相次ぐ中、白金高輪校のすぐ近くに白金台校を開設しました。
サピックス小学部の校舎は、現在首都圏に44あります。
こうした中で開成の合格者数も大きくのびたわけですが、気をつけたいのは、「サピックスの開成・桜蔭合格率」は2000年代以降上がっていないという点です。
次のグラフをご覧ください。
さきほど同様、桜蔭も合わせて、開成・桜蔭合格者数のサピックス在籍者数に占める割合の変化をグラフ化しています。
1990年の1期生は20%を超えますが、その翌年以降は、10%台前半で推移、生徒数の拡大した
2000年代以降は、8〜10%前後で推移し、ここ数年は若干ですが下落傾向にあります。
合格率で見ればGnobleや希学園も
「難関校受験ならサピックス」とお考えの保護者の方は多くいらっしゃいます。実際、サピックスは、大量のテキストやカリキュラムなど、難関校合格に必要なシステムを構築し、「下落傾向にある」とはいえ、依然高い合格率を誇っています。
ただ、合格者の実数は、サピックスという塾の規模による部分が大きく、他塾と比較して、サピックスが圧倒しているというわけではありません。
関西発の希学園(首都圏)は2021年、開成に9名合格者を出しています。男子在籍者数は110名ですので合格率は8%。開成・桜蔭合格率はサピックスとほぼ同じです。
また、グノーブルも、男女御三家の合格率で言えばサピックスと互角です。
希学園の首都圏教室は目黒・二子玉川・みなと芝浦・横浜と4教室しかありませんし、グノーブルも11校舎しかありませんので、通塾可能なエリアは限られます。
首都圏くまなく校舎網をはりめぐらせ、生徒を獲得し、合格者数を増やしたサピックスの会社としての経営ビジョンは、他を圧倒していますが、開成や桜蔭をはじめとする難関校を受験する際に、サピックスだけが抜きん出た存在かと言うと必ずしもそうではありません。ましてや、サピックスに通えば、難関校の合格にするわけではありません。
高校受験の早稲アカ?
下落するサピックス中学部の合格実績
では、高校受験の状況はどうなのでしょうか?
こちらは、サピックス小学部と中学部の開成中学・高校合格者数を比較したものです。
サピックス中学部は、1期生が定員100の開成高校に49名合格し、初年度から「開成合格NO.1」を売りにしてきました。
加えて、早慶についても、2001年に早稲アカが全国No.1の実績を打ち出す前年まではサピックスが合格者数でトップを走っていました。
なお、サピックス中学部は、2009年には在籍者数(卒業生数)が1154名でしたが、その後、在籍者数の公表を停止しています。現在は、当時より大幅に生徒数が減少しています。
その後、2009年には、早稲田アカデミーが開成高校合格者数No.1を達成しました。
こちらは、サピックス中学部と早稲田アカデミーの開成合格者数を比較したものです。
近年は、早稲アカが合格者数を伸ばす一方、サピックスが減少傾向が続いています。勢いという意味では、現在は圧倒的に早稲アカ。サピックスが下落傾向にあるのは否めません。
早稲アカは、2001年に早慶附属高校の合格者数で全国No.1を達成した年、開成でのNo.1を宣言しました。当初目標としていた3年以内での到達には至りませんでしたが、2009年に逆転して以降、サピックスとの差を広げています。
サピックス中学部は、2003年には在籍者数1312名中、開成高校に80名の合格者を出していますので、その当時と比べると、合格率は大幅に減少しています。
生徒数の多い早稲アカ 「特訓クラス」の実績をアピール
なお、2021年の早稲アカの中3在籍者数は約5900名ですので、単純に合格者数を比較するのは、難があります。
早稲アカがウェブサイトでアピールしているのは、選抜制の「特訓クラス」の合格率です。
2020年入試では、特訓クラスの早慶・開成・国立大附属高校の合格率は約57%としています。
それ以前の広告では、特別校舎Exivの開成合格率を60%とアピールしていて、あくまで特訓クラスやExivなど、特別な対策を行うクラスに所属できることが非常に重要になってきます。
合格者数はあくまで「看板」
大手塾は、企業として有名校への合格者数をもって優秀な生徒を獲得し、さらに合格者数の増加を目指していきます。自動車のショールームにスポーツカーを展示するのは、決してスポーツカーを売りたいわけではなく、スポーツカーに惹かれたお父さんに、乗用車を販売するのが目的です。
塾も全ての生徒が開成を受験することは想定しておらず、あくまで東大合格者数が40年連続の開成中学・高校の合格実績を塾の「看板」として使っています。企業にとっての合格者数と、受験生にとっての合格者数の意味合いは全く異なります。
もちろん合格者数が多い塾には、合格のためのノウハウがあり、さらにレベルの高い生徒が集まることで、質の高い授業や、切磋琢磨するライバルのいる空間で受験勉強に望めるメリットがあります。一方で、お子様の志望校合格に向けて高い合格実績を誇る塾が必ずしも一番とは限りません。
一方で、合格実績が高い塾には、優秀な生徒が集まる傾向にあります。これは、東大合格実績を挙げた都立日比谷高校や横浜翠嵐高校に人気が集まるのと同様です。塾の合格実績も一つの指標にして、塾の雰囲気や通いやすさ、ご自身の志望校への対応度など、総合的に判断して塾選びをすることが大切です。
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