中学受験生にとって、常に最大の関心事「偏差値」。サピックス・オープンや日能研の合格判定テスト、四谷大塚の合不合判定テストなどを受験すると偏差値が発表されます。そして各塾からは、結果偏差値や予想偏差値などが公表されますが、いずれも「正確」なものではありません!
偏差値は、あくまで1つの指標。正しく活用することが大切です。
「自分の偏差値」は?
偏差値とは、テストを受験した集団内で自分がどんな位置にいるかを示す数値です。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
母集団が違えば、偏差値も変わるので、同じ学力でも模試によって偏差値は大きく変わります。
中学受験の4大模試での偏差値のイメージは
偏差値低 偏差値高
SAPIX < 四谷大塚 ≒ 日能研 < 首都圏模試
模試の母集団のレベルが高ければ、偏差値は低く出ることになります。
実際は、模試ごとに母集団が変わるので、たとえば四谷大塚の合不合判定模試の偏差値でも、厳密には、前回と今回を比較するのは正しくありません。
ただ、同じ会社の模試なら、受験車層はほぼ同じなので、偏差値の変化を見て、学力の変化を判断することができるわけです。
模試で気になる「合格可能性」と偏差値
模試で気になるのが、子どもの偏差値と学校の偏差値の関係です。
志望校の偏差値を超えていれば安心できますし、志望校の偏差値に届かないとなると、さらなる努力を要することに。場合によっては、志望校の変更も検討しなければなりませんね。
この合格可能性は、模試の成績=偏差値と、志望校の偏差値を比較して算出されます。
4科目もしくは2科目の偏差値が志望校の80%合格偏差値を超えていれば、合格可能性は80%となります。
2種類ある「学校の偏差値」”予想”と”結果”どう違う?
では、「学校の偏差値」はどう決まるのでしょうか?
模試では通常、学校の「偏差値表」が公表されます。
予想偏差値や結果偏差値、また「80偏差値」や「50偏差値」など、さまざまな「偏差値」が発表されます。
偏差値は、ときに「一喜一憂」して励みにもなりますが、大切なのは、「データを活用」することです。
そもそも学校の偏差値には「結果偏差値」と「予想偏差値」の2種類があります。
「結果偏差値」「予想偏差値」とは何?そして、どう違うのでしょうか?
結果偏差値は「正確」とは限らない
まず、「結果偏差値」はその名のとおり、入試結果を偏差値で表した偏差値表です。
模試で偏差値50だった生徒が合格した学校の偏差値が50という具合に、模試受験者の偏差値と合格校を分析し、各学校の偏差値を決定しています。
ただ、ここで注意したいのは、この偏差値をとれば必ず合格するというものではありません。
四谷大塚では80偏差値、日能研はR4偏差値などと称しています。
R4というのは日能研用語ですが、次のように説明されています。
R4とは…合格可能性を示す数値で、偏差値による合格率の各段階(RANGE=レンジ)を示し、『R4=80%、R3=50%、R2=20%』を意味します。
たとえば、開成中学の2021年入試結果偏差値は、四谷大塚で71、日能研で72ですが、その偏差値をとった80%の受験生が合格したという意味です。
逆に言うと、四谷大塚の合不合判定テストで71をとっていた受験生の20%は不合格という結果に終わったということですね。
偏差値は「必ず合格するライン」を示したものではないということです。
なお、結果偏差値は、入試結果に基づく「データ」ではありますが、必ずしも正しいというわけではありません。
四谷大塚と日能研は、次のような注釈を加えています。
四谷大塚
この一覧表は、合不合判定テストを受験された方を対象に「入試結果調査」を実施し、調査結果より算出した合格可能性 %ラインを表したもので、学校差を示すものではありません。
日能研
毎年受験する日能研生の入試結果をもとに、学校のR4偏差値を算出し、まとめた一覧表です。4月に全国公開模試受験生に配付されます。
結果偏差値はデータそのものだと思われているかたが多いですが、結果偏差値表は、日能研が「入試結果をもとに、学校のR4偏差値を算出」とするように、「データそのものではない」ということです。あくまで人の手が入った数字です。
四谷大塚は「学校差を示すものではありません」としていますが、偏差値の算出にあたって、他の学校の偏差値(データ)を参考にすることはよくあるものです。
さらに、結果は偏差値は統計的な要素を持っていますが、その模試を受けた受験生のなかで、ある学校の入試受験者が少ない場合、集まる統計は少なくなります。
統計学では「有意」という概念がありますが、サンプルが少ない統計に、統計としての正確性は小さくなります。
2021年、高倍率で話題になった広尾小石川のように、試験が何度も行われ、1回あたりの募集人数が10名から30名と極端に少ない入試も、たまたまある回にレベルの高い生徒が集中するというような偶発的な要素も大きく、「合格」のサンプルは少ないため、結果偏差値をそのままうのみにすることは難しいのです。(のちほど詳しく解説します)
予想偏差値は「主観的」
一方、予想偏差値は結果偏差値よりもさらに主観的です。
日能研は、次のような注釈を加えています。
結果R4をもとに、来年入試での試験日・定員・入試科目の動きと合判テスト結果を見ながら、予想し、まとめた一覧表です。6月からの毎月、全国公開模試受験生に配付されます。
予想偏差値は、前年の結果偏差値をもとに、入試日程や募集人数などの変化などを分析するとともに、また模試受験者の志望校登録などを加味して算出されます。
特に中堅校は、前の年に倍率が高かった学校は翌年敬遠される傾向があり、またその逆もまた然りです。
こうした傾向をそれぞれの塾が分析して、志望校登録などで人気動向を探りながら予想偏差値を算出します。
その分析を実際に担っているのは、実際に教壇に立つこともある塾講師たちが担う場合は多いです。
ですから、特に新設校の偏差値については、塾の「予想力」が試されます。
また、人気動向の分析により、模試の回を重ねるごとに偏差値は変化していきます。
多くの場合、その変動は1〜2程度です。ボーダー付近の受験生にとっては大きな変化ではありますが、統計的には有意差はほとんどないレベルです。
実際、中学受験よりもはるかに受験者数が多い大学受験界において、河合塾は、学校の偏差値を2.5単位で算出しています。偏差値2程度の差が誤差にすぎず、偏差値が1上がった、下がったと騒ぐことにはあまり意味がないのです。
さらに、何度も繰り返しますが、この偏差値は、合格率80%、逆に20%の受験生が合格には届かない偏差値です。
合格を確実にするためには、志望校の偏差値を3程度上回る偏差値を安定的にとらないと心許ありません。
「結果偏差値が高かった」入試は難しかった??
一方、入試シーズンを終えて結果偏差値が発表されると、その年の受験生をはじめ多くの方は予想偏差値との比較を気にします。
あの学校の偏差値が上がったから、ことしの入試は難しかったのね
といった具合に…。
しかし、さきほどから申し上げているように、予想偏差値、結果偏差値いずれも、正確な「データ」ではありません。予想偏差値はもちろん、結果偏差値も「人の手」が加えられたデータです。
たとえば2021年に新設された広尾小石川中学の2月1日午前(男子1)の予想偏差値と結果偏差値を見てみましょう。
日能研(予想)43 →(結果)49
それぞれ予想よりも結果の方が高くなっています。
つまり、各塾の予想よりも入試は難しかったということになります。ただ、募集人数が男女合計25人で、189人の応募があった試験です。
塾が集められた志望者や合否のデータは、それぞれ数十しかありませんので、統計的に偏差値1程度の差は有意差として認められないレベルです。
一方、四谷大塚では予想と結果の差は1でしたが、日能研は6の開きがあります。
これは、日能研が「予想を見誤った」と言えそうです。
模試で実態に近いデータを集められなかったり、データの分析が誤ったりした可能性があります。
今回は、四谷大塚のほうが偏差値を「当てた」形ですが、特に新設校や、募集人数・受験者数が少ない学校の場合は、日能研に限った話ではなく、予測は非常に難しくなります。
その学校の志望状況だけでなく、その学校を志望する受験者の他の志望校などを勘案して偏差値を「当てる」のは至難の業です。
なお、他の学校についても、結果偏差値が予想偏差値より上がったとしても、それは「入試が難しかった」わけではありません。
もちろん多くの学校の偏差値が上がった場合、そのレベルの学校群においては、塾の予想を上回る受験生が集まったり、チャレンジして高い学校を受験すると予想されていた受験生の多くが、合格が確実な学校を受験し、レベルが上ったなどの傾向は推測されます。
ただそうした予想を行った上で予想偏差値は算出しています。
結果偏差値が予想偏差値より高いのは、あくまで「塾の予想」より難しかっただけで、それだけをもって「2021年の入試が難しかった」などと言うのは拙速です。
偏差値は「当たらない」前提で受験校の選択を
偏差値は、志望校そして受験校を決める上で、最も役に立つ指標です。
ただ、すでに述べたように学校の偏差値は、データとして「絶対正確」なものではありません。
また、学校によって出題傾向は異なり、1つの模試で、すべての学校の合否を判定することは不可能です。
特に難関校については、学校別の模試も実施されますが、塾が作成する問題と、学校の先生が半年間かけて作成した渾身の問題は、問題数や形式こそ似通っていますが、問われる学力は似て非なるものです。
実際に、塾の現場ではその子がその学校に合格するかどうか偏差値だけで判断しません。むしろ、特に難関校の場合は、塾内での順位のほうが判断の指標としては活用しやすく、所属するクラスや、前年に教えた生徒との比較などから総合的に合格可能性や適切な併願校を判断します。
これから模試を受験するたびに偏差値に直面することになりますが、偏差値だけをもとに受験校を選ぶことはできません。6年生になると塾の面談の回数も増えるはずです。ときに塾講師の「直感」や「経験」も借りながらの志望校選びをおすすめします。
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