中学受験勉強を始めるにあたって最初に悩むのが塾選びです。
関東の場合、圧倒的な合格実績を誇るSAPIX(サピックス)、早慶附属中学を中心に勢いのある早稲田アカデミー、さらに長年大手として君臨してきた日能研や四谷大塚などが選択肢となります。
一方、塾業界は変遷が激しく、男子御三家の一角、開成中学受験で名を馳せた桐杏学園は衰退、武蔵中学受験の代名詞的存在だった学習指導会(のちのしどう会)は消滅してしまいました。
こうした中、最近勢力を拡大しているのが、Gnoble(グノーブル)です。2021年の入試では、在籍者の1割強が男女御三家に合格。これはSAPIXと肩を並べるレベルです。
サピックスの創設者たちが設立したGnobleと、勢いの止まらないSAPIX、これから通うならどっちを選べばいいのでしょうか?両者の違いは?メリット・デメリットを詳しく説明します。
SAPIXは知っているけど、Gnobleはどんな塾?
SAPIXについては、中学受験生を持つ家庭なら知らない方はいらっしゃらないと思いますが、Gnobleの知名度は、まだそこまで高くはないですね。まずはGnobleとはどんな塾なのかを見ていきましょう。
業界の風雲児、中山氏のGnoble
Gnobleは大学受験塾として、2006年にスタートしました。
設立者は、業界の風雲児、中山伸幸氏です。
1989年、TAP進学教室から独立してSAPIXを創設。
SAPIXは、独立時に小学部と中学部が別会社として設立されました。
詳しくは、↓こちらの記事で詳しく述べています。
中山氏は、その中学部の創設メンバー3人の1人、社内序列的には小田茂社長に次ぐNo.2の専務の立場にありました(のちにSAPIX中学部代表となった高橋光氏はNo.3)。
SAPIX中学部では、西東京校(現在の荻窪校)の室長として、東京校や西東京校の最上位Zコースの英語を担当、その後たまプラーザ校の室長にも就く傍ら、大学受験コースの「NEXUS(ネクサス)」を設立しました。
NEXUSは、SAPIX小学部や中学部の卒業生を中心に口コミが広がり、御三家やそれに次ぐ難関校の生徒を集め、東大の合格実績を毎年増やし続けました。
しかし、横浜校の設立を主張する他の役員らと対立。拡大路線を選ばず、渋谷1教室で質を保った展開を主張した中山氏はSAPIX(NEXUS)を離脱し、Gnobleを立ち上げました。
もともとNEXUSは「受験指導一辺倒」でない、カリスマ性を備えた中山氏に依存したブランドでした。Gnobleは新年度の途中、7月の開講という受験生にとっては戸惑う季節での設立でしたが、初年度から中山氏の授業を求めて多くの生徒が移り、初年度から東大をはじめ合格実績を伸ばしてきました。
英語だけはGnobleという難関校の生徒も多くいます。
2020年の東大合格者数は157人で、在籍者数の18%が東大に合格しています。鉄緑会には遠く及びませんが、大学受験界では、それなりの知名度を誇る存在です。
(NEXUSは、その後SAPIX高校部に改称、現在は代ゼミグループのY-SAPIXとして続いていますが、経営方針が定まらず紆余曲折が続いています。同時期、SAPIX中学部は開成高校の合格実績などで早稲アカと水を開けられ、かつての勢いを完全に失ってしまいました)
SAPIXの代ゼミグループ入り後、中学受験部門を創設
すでに述べたように、SAPIXの小学部と中学部は別会社でしたが、中学部幹部のうち、小学部と良好な関係を保っていたのが中山氏でした。
Gnobleの創設後は、サピックス小学部の機関誌に 「Gnoble」の中高一貫校生用コースの広告が掲載されるなど、一時期のサピックス小学部は、卒業生に「サピックス中学部(大学受験コース)」ではなく、Gnobleを紹介していました(代ゼミグループ入り後はさすがになくなりましたが)。
そのGnobleが中学受験部門を設立したのは2013年。
表舞台には登場していませんが、創設メンバーの1人で、長年SAPIX小学部の代表を務めていた田村謙氏が取締役として設立を主導(現在は、中学受験部門を運営する、株式会社グノリンクの代表取締役社長)。表向きには、SAPIXの教務本部長を務めていた眞田素氏が、教務本部長として、実質的なトップの顔を担い、SAPIXの講師を一部引き抜いて設立したのがGnobleの中学受験部門です。
つまり、Gnobleは、代ゼミグループ入する前の「昔のSAPIX」なのです。
SAPIXとGnobleの違いは
SAPIXとGnobleはもともと同じ系譜の塾ですが、どこが同じで、どこが違うのでしょうか?詳しく説明していきます!
合格実績は割合で見ると互角
まず2021年の合格実績(2/13現在の速報値まとめ)。結論から申し上げると、互角です。
*数字太字は在籍者数に占める割合で上回っている塾。
SAPIX | (対在籍者数%) | Gnoble | (対在籍者数%) | |
在籍者数 | 6179 | 469 | ||
開成 | 268 | 4.34% | 13 | 2.77% |
麻布 | 206 | 3.33% | 16 | 3.41% |
武蔵 | 61 | 0.99% | 7 | 1.49% |
駒場東邦 | 170 | 2.75% | 10 | 2.13% |
栄光学園 | 105 | 1.70% | 11 | 2.35% |
聖光学院 | 229 | 3.71% | 22 | 4.69% |
灘 | 26 | 0.42% | 2 | 0.43% |
筑波大学附属駒場 | 86 | 1.39% | 7 | 1.49% |
筑波大学附属 | 90 | 1.46% | 10 | 2.13% |
桜蔭 | 160 | 2.59% | 10 | 2.13% |
女子学院 | 144 | 2.33% | 11 | 2.35% |
雙葉 | 54 | 0.87% | 6 | 1.28% |
フェリス女学院 | 80 | 1.29% | 7 | 1.49% |
豊島丘女子学園 | 291 | 4.71% | 11 | 2.35% |
慶應義塾(普通部・中等部・湘南藤沢) | 310 | 5.02% | 32 | 6.82% |
早稲田(早稲田・早大学院・早実) | 338 | 5.47% | 25 | 5.33% |
渋谷教育学園渋谷 | 240 | 3.88% | 23 | 4.90% |
渋谷教育学園幕張 | 380 | 6.15% | 34 | 7.25% |
男女御三家合計 | 893 | 14.45% | 63 | 13.43% |
生徒数に大きな開きがありますので、在籍者数に対する、各学校の合格者数の割合をまとめました。
まず、開成はSAPIXが4.34%に対して、Gnobleは2.77%、また桜蔭はSAPIXが2.59%に対して、Gnobleは2.13%と、いずれもSAPIXがリードしています。
一方、筑駒や麻布、武蔵ではGnobleが上回っていますし、女子を見ても女子学院や雙葉、フェリスなどでGnobleが上回っています。
男女御三家(開成・麻布・武蔵・桜蔭・女子学院・雙葉)の合計で見ても、SAPIXが14.45%なのに対して、Gnobleは13.43%で、合格率で見る限りは、ほぼ互角となっています。
もちろん、各塾は「合格者数」を前面に掲げて業界内で競い合っています。
数字の上では、SAPIX一強ではありますが、「1校舎あたりの合格者数」が互角だとすれば、合格に向けた環境も大差がないということになります。
なお、Gnobleは2013年の設立当初は、算数単科の学校別クラスを開講するのみでしたが、翌年以降、ほかの科目も充実させてきて、ここ数年の卒業生はGnobleのみで学習した生徒がほぼ100%となっています。
“ウリ2つ”のカリキュラム
合格実績では互角のSAPIXとGnoble。
同じ系譜の塾であるがゆえに、カリキュラムも非常に似通っている、というかほぼ同じなんです。
こちらは、SAPIXとGnobleの6年生算数のカリキュラムです。
左がSAPIX、右がGnoble。いかがですか?見比べるとほとんど同じですよね。
現在のSAPIXのカリキュラムは、Gnobleの幹部が作ったようなものです。
だから、GnobleのカリキュラムがSAPIXと”ウリ2つ”なのは、当然とも言えますね。
なお、6年生社会は、Gnobleは2月から公民の学習に入るなど、若干の違いがありますが、理科はSAPIXとGnobleはほぼ同じカリキュラムになっています。
SAPIXといえば薄手・大量のテキスト Gnobleも同じです
では、テキストはどうなのでしょか?
SAPIXのテキストの特徴は、なんといっても大量の薄手のテキストだよね。
整理するのが大変…。Gnobleはまとまってるのかしら?
SAPIXは、デイリーサピックス・ウィークリーサピックスのほか、秋からはサンデーサピックスのテキストなど、テキストの量、ハンパないですよね。
もう30年以上前の話なので、「時効」ということでお話すると、当時は市販の教材を切り貼りして「非売品」と表記して配布していました。
もちろん、現在はそのような違法行為はありません。
一時、SAPIXやほかの塾の国語の教材の著作権で問題になったことがありましたが、現在はかなり厳密に著作権処理も行われています。
GnobleもSAPIXと同様に、「Gnoラーニング」というテーマごとの薄手のテキストを大量に配布するスタイルです。
やはりこの形式は、SAPIXの伝統で、新しい塾でも変えられるものではないようです。
薄手のテキストは、何といっても大量の問題演習をこなすためのものですが、年度の途中でテキストを加筆修正できるというメリットもあります。
いまのSAPIXではなくなりましたが、昔は、教師が授業の生徒の反応を見ながらテキストを修正するなんてこともあったんです。
なお、SAPIXからはコアプラスなどの市販のテキストも出版されていますが、Gnobleでは、「難関中合格シリーズ」や「算数単元別対策シリーズ」などのテキストが市販されています。
市販の教材から、Gnobleのエッセンスを垣間見ることができますので、こうしたテキストでGnobleの教育内容を探ってみてもいいかも知れませんね。
授業時間もウリ2つ 授業料はほぼ同じ
授業時間や授業料もほぼ同じです。
6年生の授業時間と授業料を比較してみましょう。
・平日:17:00~21:00(80分×3コマ)×週2日
・土曜:14:00~19:00(75分×4コマ)
授業料:59,950円(税込み)
・平日:17:00~21:00(80分×3コマ)×週2日
・土曜:14:00~19:00(75分×4コマ)
授業料:59,400円(税込み)
Gnobleは、もともとSAPIXのシステムを確立した人たちが作った塾ですので、GnobleとSAPIXの授業時間も全く同じです。
授業料はGnobleがやや安いですが、誤差の範囲ですね。
ここまで徹底して”ウリ2つ”って、結構びっくり!!
季節講習や模試、購入する問題集などによって差は生じますが、基本的なカリキュラムや授業料などでGnobleとSAPIXの差はほとんどありません。
SAPIXとGnobleどっちがよい?
では、これから塾選びをする場合、SAPIXとGnoble、どちらを選べばよいのでしょうか?
SAPIXのメリット・デメリット
何と言ってもSAPIXのメリットはトップレベルの生徒が集結することです。
大規模校舎に通えば、α1など上位コースは、ほぼ確実に御三家に合格するような優秀な生徒が集い、最高レベルの生徒が集結した環境で受験勉強に臨むことができます。
コロナ禍でオンライン対応に力を入れている塾もありますが、いくら良い教材と良い講義がそろっても、小学生にとって、1人で勉強するのは至難の業ですよね。
塾は、ライバルから刺激を受けてモチベーションを高める、そういった役割があり、優秀な生徒が集まり、自分よりもできる友達を見ることで、さらに頑張ろうという意欲が湧いてくるはずです。
一方、SAPIXのデメリットとしては、大人数がゆえに、大規模校舎ではトップ層を除いて頻繁にクラスが変動する可能性があり、担当する講師も変わる懸念があります。そのため、講師と生徒の距離の近さはあまり期待できません。質問教室もありますが、1人あたりの質問時間が制約されるなど、システマティックになり、親が勉強を見たり、家庭教師や個別指導を併用する生徒も大勢います。
SAPIXに通ってカリキュラムをこなすこと自体が難しい状況で、一部の優秀な生徒を除いては居心地も良くなく、また学力に応じた適切な指導が期待できないこともあります。
SAPIXは、長年培われたノウハウにもとづく、完成度の高い難関校対策のカリキュラム・教材・指導法を享受するために通う塾と言えると思います。開成や桜蔭など、圧倒的な合格実績を誇る学校への進学を希望する場合、「あえて」ほかの塾に通う理由はないかもしれません。
受験は「情報戦」でもありますので、あらゆる情報が最も集まったSAPIXは第一の選択肢に入るのではないでしょうか。
Gnobleのメリット・デメリット
一方、すでに述べたように、Gnobleも、実質的にはSAPIXと同質の授業を受けることが出来ます。
SAPIXの特に大規模校は、小学1年から募集停止となり、「通いたくても通えない」ことが多々あります。
その点、Gnobleは、昨年、自由が丘から各駅停車で4駅の武蔵小杉に新教室を開設するなど、今まさに拡大途上にある塾です。
その武蔵小杉と、同時期のオープンした巣鴨を含めてまだ11教室しかありませんので、地理的に選択肢に入らない場合もあるかと思います。
Gnobleの教室は、SAPIXの大規模校や、合格実績の良い「教育熱心な地域」を中心に作られています。
戦略的にかなりSAPIXを意識しているようです。
ただ、1校舎あたりの人数はSAPIXより少ないため、競争の環境という意味ではSAPIXにおとります。
一方で、SAPIXと異なり、現状、質問は自由にできますし、生徒の側から積極的な姿勢を見せれば、SAPIXより近い距離での親身な指導を期待できます。
気をつけたいのは、Gnobleも、難関校対策のノウハウはあるものの、中堅校対策にはあまり力を入れていないということです。
これはもともとSAPIXの上位クラスを担当していた講師たちが現在のGnobleを担っていることから当然の帰結ではあります。
中学受験も、御三家や早慶、いわゆる中堅校とさまざまで、子どもの性格もさまざまです。
全員にとって良い塾というのは存在しません。
それぞれの塾には、必ずメリット・デメリットが存在します。
各ご家庭の教育方針、志望校などと照らして、お子さんの力を最も伸ばせる塾を見つけられることを祈っています。
コメント
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